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「これ、採れたから持っていき」
村人は、籠に入れて持ってきた栗を差し出した。
「え、いいん? ありがとう……」
「わしらが出来ひん事、神さんの使いのお前らは、やってくれるからな」
「あ。実はあの首は……」
「いや! いい!」
村人はグッと体を後ろに下げて、両手でシマオの言葉を遮った。
「言わんでええ」
その言葉には "穢れ" には触れたくないという気持ちが、垣間見えた。
「……分かった」
シマオは目線を落として、一歩後ずさった。
「あ、そんで村のキヨメらな、土砂崩れした道なおして帰ってきたわ。もう次の村にもこれで行けるで」
「え……?」
村人は笑顔で続けた。
「わしもそやけど、この季節になったらどこの村でも、えべっさん来るて待つやろ? そやから間に合うように急いでんで」
「……そうなん?」
「えびすかきを待ってる村は、この先にもぎょうさんや。道塞いだままやったらバチ当たるわ。その福、待ってる村全部に届けてもらわな」
シマオは胸がジンと熱くなった。
「お前らは神さんの使いやからな。で、神さんの通る道きれいにすんのはキヨメの仕事や。ほなな。気ィつけて」
村人はそう言うと、一度だけ手を上げて去っていった。
「そうやったんか……」
自分たちのために、行く道を拓いてくれていたのか。
シマオは遠ざかる村人の背中をじっと見ながら、呟いた。
「……そやな。行かな」
「おう。行こか。次の村に」
条介は目線を上げたシマオに、穏やかにそう言った。
「あんたにもハイ。この栗、分けようや」
離れて見ていた高野聖の側に寄り、条介は栗を渡した。
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