画像付き完全版【福の神のお使い・2】お社の小さな首。

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「俺の名は鞠日土(まりひと)(たけ)のある方は条介やな。お前はえっと……なんやった?」  栗を手にした高野聖は、名を明かした。  いつの間にか、その口は "への字" ではなくなっていた。 「"マリヒト"? 俺はシマオ……」 「シマオか。俺が摂津に行ったら、武庫山に連れもて行こら」 「武庫山に一緒に行くってこと? なんで?」 「なんか気に入っちゃあよ」  山を気に入っているのか、自分を気に入ったのかシマオはよく分からなかったが、また会えるのかと思うとなぜか嬉しかった。 cc54e8f6-ff08-40dd-ac62-46d916d74600  鞠日土は笑いながら、衣の裾をぱんぱんと叩いてその場を離れようとした。その時、袖からぽとりと何かが落ちた。 「おいおい、また何か落としたで……うわッ」 「げ、何それ……気味わる……」  そこには骨と皮だけの魚なのか獣なのかよく分からない、干からびた茶色の小さな何かが落ちていた。 「……それ食いもんか?」 「いや、これは食えんちゃあ。“人魚“ って知っちゃるけ? ほんま珍しい生き物の干物でよ。見せて話すと物もらえるよし」  鞠日土はそれを拾って手に乗せると、痩せてカラカラの不気味な頭を、人差し指で撫で撫でした。 「あ、あやし過ぎるやろ……」  二人は思わず、声を合わせてそう言った。 「人騒がせな落としもんばっかりすんなや……」  お社の前に落ちていた、生きているような小さな首を思い出してシマオと条介は呆れた。 172ae190-ecd2-4988-aaca-5fb1ad7f12f4 「また大事なもん落とすとこやった。気いつけちゃるよ。これはおもしゃいで人を集めるからよ」  高野聖の鞠日土は屈託なく笑いながら、手を振った。 「……腕は確かやけど、落としものに(くせ)あり過ぎるで」 「ほんまやな。でもあの小さい首のおかげで会えてんな」  シマオは鞠日土を見送りながら木偶人形の顔の事を思い、嬉しそうに微笑んだ。 bfba366d-03d0-4b45-8498-222356e3b40d 「栗ももらえたしな。よし、日が暮れる前に俺らも次行こか!」  二人は顔を見合わせて、思わず笑った。  *  “えびすかき” は福の神を伝える神のお使い。  肩から下げた四角い木箱に、福の神を隠した神のお使い。    村から村へ、町から町へ。  雨の日も風の日も。  山越え谷越え、笑顔を咲かす福の神を伝える使いが “えびすかき”
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