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そも そも そも
めでたき西の宮の夷三郎左衛門の尉
信ある人には福を与え 福を守る神々と
祝い申さば 御蔵もきれいに 御しめ縄引いて……
ご神木の下で、えべっさまが舞っていた。
ちょうどそろそろ片付いたかと戻ってきた、村の子どもや大人の囲む中で舞っていた。
沖は大漁、おかは満作
つきせぬ御世こそ めでたけれ!
手を広げたえべっさまに木漏れ日が射し、緋色の衣が風になびいた。
そのえべっさまの姿に、村の人々は手を合わせ頭を下げ拝んだ。その中には、さっきシマオと条介にキヨメ役を当然のように押し付けた者もいた。
シマオはほんの少しの笑みと共に、集まった人々のそばに行き、えべっさまの腕を動かしていかにも福を授けるが如く振る舞った。
えべっさまの前では、大人も子どものように嬉しそうに笑い、各々が持ってきた作物を納め、新しい「御神影札」を受け取るのだった。
有り難そうにペコペコと頭を下げながら、村人が言った。
「聖まで呼んできて、さっきの首を弔ってくれるとは……」
「え、ああ」
ハッとシマオは我に返った。
え、ああなどという言葉は神の言葉ではない。慌てて何事もなかったようにふわりとその場の空気を取り繕い、ご神木の陰にえべっさまと隠れた。
「最後に “人“ に戻っとる」
フンと鼻息をついて微笑んだ高野聖に、条介が聞いた。
「舞、どうやった?」
「いつもあえな感じけ?」
「……いつもより……良かったな。正直」
「ここの弁財天が付いたんけ。芸事の神やからよ」
高野聖は手の中の小さな首を撫でながら、お社に目をやってにやりとした。
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