仮面を着けた謎の女

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仮面を着けた謎の女

 草木も眠る丑三つ時、街の片隅で闇の取引が行われていた。方やずしりと重そうな袋を持ち、方や珍獣と呼ばれる地球での見た目は単なる猫を持つ。  しかし、此処は異世界。ゴブリン等のモンスターが蔓延る中で、ペットとして飼われる様な動物は生き残る事が希で、人間よりも大きな身体のモンスターの餌食になりやすい。  そんな中で生き延びた小さな身体の動物達は珍獣として、金持ち貴族や一部の富裕層には大人気となっていた。  そして、珍獣は宝石よりも高く取引される為、庭に放し飼いしていると、あっという間に誘拐されてしまう程に警戒が必要なご時世である。  例え屋敷内で飼っていても、小間使に金を握らせてしまえば拐う事は容易となる。そうして拐われてしまった猫は、今まさに闇の取引材料となっていた。 「おお、これが噂に聞く珍獣か。何と可愛らしいのだ」 「今は眠らせているが、起きたらやかましく鳴く事もある。そっと抱く位なら構わんが、もしも起こしたら面倒だぞ?」 「解っている。明朝になって門が開いて街の外に出る迄は我慢しよう。それよりも、報酬は金貨300枚で間違いないな?」 「ああ、枚数の確認は時間がかかるからこの場ではしないが、もしも少なかったら後でどうなるか保証はしないぞ」 「ふん、そんなみみっちい事をする訳ないだろう。これでも、私は貴族階級なのだからな。311枚位には色を付けてやってある」 「商談成立だな」  薄汚れたローブで身を包んでいるが、中身は上品で身なりの良い人物が着る様な服装だった。貴族風の男は金貨の入った袋を、同じくローブで身を包んだ悪人面の無精髭を生やした男は抱えていた猫を受け渡そうとしていた。 「そこ迄よ」 「誰だ!?」  無精髭の男は突然乱入した声の主を求めて視線をさ迷わせる。  貴族風の男が護衛として後ろに控えさせていた男達を除き、二人しか居ない筈のこの場に、女性の艶やかな声が上の方から聞こえてきたのだ。  見上げてみれば、其処には仮面を着け、胸が強調された衣装を身に付けたポニーテールの女が屋根の上に立っていた。  女は手の届かなかった有利な立場を捨て、態々屋根から飛び降りて男達と対面する。 「拐われた次の日には行方が掴めなくなると思って、夜の街を見張っていた甲斐が有ったわ。大人しくその猫を渡しなさい。さもないと後悔するわよ?」 「はっ、小娘独りで何が出来る? おい、護衛の奴等にも手伝わせろ、囲んで捕らえるぞ」 「邪魔者を捕らえよ。序でに犯しても構わん」 「馬鹿な貴族様ね。これ以上罪を増やして自分が捕まった時の事考えないのかしら?」 「死人に口無しとは思わんのかね?」 「あっそ。なら手加減は要らなそうね」  護衛の男達が女の背後に回ったのを確認した途端、無精髭の男が抱えていた猫を女に向かって放り投げつつ、無言で女に迫る。 「アイスバインド!」  女は慌てる事なく呪文を唱えた。すると、男達を氷で出来た鎖が地面から現れて瞬く間に拘束する。 「な、無詠唱だと!?」  武器も持たず無防備に見えた女に対して、無精髭の男は相手が何か呪文を詠唱しようとする前に口を塞いでしまえば良いと考え接近した筈が、無様に拘束されてしまい驚愕する。 「ヒイ!」  唯一拘束されなかった貴族風の男は、惨状に腰を抜かしてしまう。  そんな様子を気にも止めずに猫を無事にキャッチした女は仮面で隠れていない口元を綻ばせる。 「ほ、まだ寝てるわね。良かった」  軽く撫でてから猫をそっと抱え直すと、這いつくばりながら逃げようとしていた貴族風の男に向き直る。 「スリープ」 「かへ?」  気を失い倒れ伏す貴族風の男。その姿を確認し終えてから、拘束されたままの男達に視線を送る。 「何者だ貴様」 「仮面を着けているのに正体を明かすわけないじゃない」  無精髭の男は歯軋りをして悔しがる。見た目からしても年端も行かない小娘に良い様にしてやられている現状、せめて正体だけでも暴きたかったが、それも叶わず。 「スリープ」  かけられた呪文に抗う事が出来ずに拘束されたまま気絶する男達。それを見届けた女は猫が居た屋敷に向かって歩き出す。 「今度は起きてる時に会いましょう?」  早朝、拐われた筈の猫が屋敷内で寝ているのを発見した執事が主人に慌てて報告しに行っていた頃、街の片隅に気絶した四人の不審者が憲兵に捕らえられていた。
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