雨のりゆう

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雨のりゆう

    """"""""""""""""""""""""""""""   一か月ほど前から、部屋の中で龍を飼っている。  雨の日に窓を開けていたら、ふよふよと空から落ちてきたのだ。  2mくらいの小さな龍で、身体は缶コーヒーくらいの細さしかない。立髪と髭は堅くコシがあり、色も手触りも箒のような感触。見落としてしまいそうなほどこっそりと生えている腕はまるで枯れ枝のようで、壁に当たっただけでポッキリと折れてしまいそうだった。  腕に比べて存在感のある大きな目はギョロリと大きく、けれど少しの衝撃で取れてしまいそうなほど不自然な場所に付いている。馬のように突き出た口、蛇か魚かわからないが硬い鱗に覆われた体、魚のような尾っぽ。様々な動物が、しかしうまい具合に組み合わさっている龍は、最初のうちは少し気味悪かったものの慣れてしまえばなんてことない。 「たばこ吸うけど、煙はいるかい?」  電灯の周りをウロウロしていた龍に呼びかけると、すい、と蛇が泳ぐような恰好でこちらに近づいてきた。  部屋の中にいてもいたずらするわけでもなく、生ごみや、こうやってたまに吸うたばこの煙を食べているので食費もかからない。仙人は霞を食べると言うが、龍もそうだっただろうか。 「……あれ、もういいの?」  味に飽きたのか、ここ最近は二、三回口をパクパクとさせるだけですぐに向こうに行ってしまう。仕方ないので窓を開けて、外に煙を逃した。 (こうやって窓を開けても出ていかないし)  人がいたらダメなのかと思い、しばらく開けたまま離れていたこともあるがダメだった。龍は窓に近づきさえもしないのだ。 (こうしてるうちに、なんとなく情も移っちゃったし)  同居する上では全く問題ないように思うのだが、浴槽を龍が占拠しているため、ここ一か月ずっとシャワーしか浴びれていないということだけが唯一の欠点だった。  残り湯をそのままにしておいたら龍が入ったまま出なくなってしまい、そんなに気に入ったのならと新しい水を入れてあげたら一日の大半をそこで過ごすようになってしまったのだ。散歩で部屋をウロウロするときと食事以外は、寝るのも浴槽の中だった。龍自身に浄水作用があるのか、水は変えずともいつまでも綺麗なままで水道代はかからないが、シャワー中に石鹸が入らないようにしなくてはいけないのが大変だ。浴室に入った時から、縄張りに誰か入ってきたというように浴槽からジッと見つめてくるので気が抜けないのだ。 「にしても、龍よ」  これだけ飼っているが、まだ名前は決めていなかった。 「お前が来てから一か月、世間はずっと雨が続いているけど、この雨雲はお前が呼んでいるのかい?」  返事はない。顔も向けない。電灯のあたりをクルクルと回って遊んでいる。 (そもそも、このアパートはペット不可だしなあ)  ペット可だとしても、龍を住まわせていいところなど聞いたことはないが。
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