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僕の家に近づくごとに、雨足が強まっている気がした。
「私が来て欲しくないんじゃない?」という彼女の言葉も、強く否定できない。
「龍の機嫌が悪いのかな」
「怒ってるってこと?」
「お腹が空いているのかも」
今日はたばこの煙もあまり食べなかったし、生ゴミは昨日捨ててしまったため、龍が食べれそうなものは何もないはずだ。
「ねえ、それよりも。あなた、スパゲティを2人前も食べたのに、まだ食べ足りないの?」
「なんで?」
ガサガサと鳴っている手提げ袋を指差しながら言う。
「デザートなんて置いてくればよかったのに」
「せっかく買ったんだから、すぐに食べようよ。ちょっと多めに買ったから、龍も一緒にさ」
「はいはい。龍も一緒にね」
部屋の前に着くや否や、彼女は僕から鍵をひったくると、さっさと開けて中に入ってしまった。向かう先は浴槽だ。どんな反応をするのだろう、と期待するが一向にリアクションがない。まさか、驚きのあまり失神しているのでは、そんなことを思っていると、彼女が首を傾げながら浴室から出てきた。
「いないじゃない」
「おや? おかしいな。だったら」
「ねえ、やっぱり、あなたの嘘なんじゃ」
リビングに入ったところで、ピタリと彼女の発言が止まった。
「そのあたりを散歩してるかもしれない」
その予感は的中し、龍は天井にいた。龍も彼女も、時間が止まったかのように静止している。そういえば、鳥は羽ばたき続けないと落ちてしまうのに、龍は動かなくても宙に居続けることができるらしい。軽いのだろうか。
「……きゃ」
「きゃ?」
「きゃーッ! きゃーッ! きゃーッ!!!」
突然スイッチが入ったように彼女が叫ぶ。それに驚いた龍が僕の後ろに隠れた。
「本当に龍がいたわ!」
「僕は嘘をつかないよ」
「本物の龍! 初めてみた!」
「驚きすぎじゃない?」
「本物よ! 初めてみた、あなたも、はじめて龍を見た時は驚いたでしょう!」
「…………」
あれ。そうだったっけ?
「……ひょっとして、あなたの神経みんな死んでるんじゃない?」
「今傷付いたから、多分生きてるよ」
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