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ひとしきり騒いだからか、息を吐ききった彼女は落ち着きを取り戻したようだった。僕の後ろで隠れている龍をまじまじと見つめると、眉を顰める。
「ねえ、なんだかその子、ちょっと細すぎない?」
「最初からこんな感じだったよ。食べさせてはいるけど、太らないし、出ていかないんだ」
「出ていかないって、引きこもりなの?」
「そんな身も蓋もない言い方」
「もしくは、なにかから逃げてきて、外に出れないとか」
「逃げてって、龍だよ? 一体何から逃げるのさ」
「例えば………………あんな感じの猫とか」
「猫って……。龍を怖がらせるって、一体どんな猫なのさ」
龍も彼女も落ち着いたようなので、僕はデザートを切りに台所に向かった。
「本当は、ちょっと冷やした方が美味しいんだけどね」
細すぎない? と言われてしまうようでは、もう少しいいものを食べさせる必要があるかもしれない。本当は皮を食べさせるつもりだったが、実もあげることにした。
「うーん、龍に半分は多すぎかな?」
「多かったら、あの子にあげれば?」
「あの子って?」
「あの猫」
あの、と言われても台所からは彼女の姿は見えないので、どんな猫かわからない。
「ねえ、あの猫もあなたが飼ってるの?」
「僕は猫なんて知らないよ。……野良猫でも入ってきたの?」
「じゃあ、窓の外にいるあれはなんなのかしら? 白猫みたいだけど」
「猫なんて今時珍しくもなんとも」
言いながら振り返る。
そして、
「おわあああああああああああっ!」
叫んだ。
窓の外、確かに、白猫らしきものがいた。ただ、あきらかに普通の猫と体格が異なっている。大きい。とにかく巨大だ。猫と断言できなったもの、あまりに巨大すぎて窓からは額のあたりしか見えず、全体がわからないからだった。体勢からして、飛びかかる一歩手前のようにしてこちらを睨んでいるのだろう。
「私、あなたが叫んでいるの初めて見たわ」
「いくらなんでも驚くよッ! なんなんだあれはッ!」
「龍がいるんだもの。あんなのがいてもおかしくないわ」
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