雨のりゆう

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 目が離れた。顔を持ち上げたらしい。顔の奥にはやっぱり白い巨体があり、毛の模様が見えて、正体がわかった。 「あれ、もしかして白虎かな?」  びくりと視界の端で龍が身体を震わせ、僕の後ろに隠れる。 「キミはあれに追われたのか」  途端、窓の外から指が、猫の手の指一本が部屋の中に入ってきた。龍をほじくり出そうと懸命に動かしている。 「ね、ねえ……逃げたほうがいいんじゃない?」彼女が言う。 「って言っても、どこにさ。あんなのに追われたら、どこにいても逃げ場はないよ」 「でも、このままだと入ってきちゃうかも!」 「うーん、大丈夫じゃないかな」  白虎は指をガンガン打ち付け、奥に奥に入ろうとしているが、窓が壊れる様子はない。鋭い爪がいくら床を引っ掻いても傷ついている様子はないし、カーテンも全く破れていなかった。 「家を壊したりはできないみたいだね」  だが、安心というわけにはいかない。このままずっと家にいるわけにはいかないし、白虎の爪の近くには僕の布団がある。破かれないにせよ、このままじゃ布団を敷くことができない。何より後ろで震えている龍が可哀そうだ。 「きゃあ!」彼女が叫ぶ。また白虎が目を覗かせたのだ。琥珀色の綺麗な猫目が僕たちをみる。  ……猫目? 「ああ、なるほど、だから猫と思ったのか」 「ど、どうしたの?」  すっかり仲良くなったのか、龍と彼女は抱き合っていた。 「猫だったら、あれが効くはず」  キッチンに戻り、デザートを手にとった。半分に切ったそれはちょうど片手おさまるくらいの大きさで、切ったばかりの断面からいい匂いと果汁が滴っている。  これなら大丈夫だ。白虎に見せないよう背中に隠しながら、窓のほうに持っていく。 「あ、危ないわよ!」  彼女が言うが、今は爪を見せているわけでもない。今がチャンスだ。  白虎の近くまで向かうと、手に持っていたデザート、オレンジを、思い切り握り潰した。 「ぎゃあああああ!!」  白虎が悲鳴をあげた。ビリビリと響き渡る大きな声量だったが、鼓膜は痛くない。やはり人間に害はないらしい。  目に思い切り飛沫をあびた白虎は、悲鳴をあげながら天へと駆け上って行く。ちょっとだけ可哀そうになったが、いた仕方ない。
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