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五月
*
空の青い色が好きだ。
正しくは、五月の雲一つない晴れた日の空の色が。
明るいものを見ると、どこにあるかも分からない心が苦しくなる。
だけど五月の青空だけはわたしを許してくれるような気がする。
その空の色を穢すようにして、一筋の灰色がわたしの手元からくゆっていた。
意を決して一気に吸い込んだ煙は異物感と不快感。口内をあっという間に侵食する。
我慢できずむせて涙目になっていると、背後から声がした。
「だっさ」
声の主は同じ紺色のブレザーを着ている、同じくらいの背丈の女子だった。通学鞄を肩にかけて、両足を少し広げて立つ姿は堂々としている。
見覚えはないから去年も今年も違うクラスの人間なんだろう。
髪の毛は茶色で短く、両耳には幾つもピアスをしている。そのうちのひとつは童話に出てくるウサギみたいな、かわいいけどどこか毒のあるモチーフだった。
ここは高校の通学路途中にある公園だから、誰が見ていても、誰が通り過ぎてもおかしくはない。
だけど知らない女子に話しかけられて愛想良く返せはしないので、ぼんやりと彼女を見上げた。
「初めて?」
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