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その夜。
布都の館で夕餉がすむと、疲れから皆が早く寝床に着いた。
広間の布都斯は褥を蹴って足を投げだした。水田で冷えた足が今は火照って熱かった。
「あのように話しても、八島野を連れてゆくのですね」
隣りの褥が動いて、稲の呟きが聞こえる。
「いろいろ経験せねばならぬゆえ・・・」
布都斯は屋根裏を見あげた。
「危険はないのですか?」
「危険だ・・・」
「では、なぜ?」
稲が布都斯のそばへ寄った。
「八島野はあの歳になっても、野良仕事しかできぬ」
布都斯は稲の肩に腕をまわして抱き寄せた。まわりから子供たちの寝息が聞こえる。
ここ、父・布都の館は布都の家族たちに加え、田植えの手伝いに来た、布都斯と下春と尾羽張の三家族と三人の実家の母たちが寝起きしている。部屋数が足らぬため、布都斯の家族は広間で眠っている。
「私のせいです。私が子らの身を案じたばかりに、このように世話をやきすぎて・・・」
稲はかたわらで眠る子供たちを見て、しおらしくつぶやいた。
「俺や下春や尾羽張が剣鍛治の修業をはじめたのは、十歳の時だ。
俺たちは皆、出雲の郷の村上の館や蹈鞴衆の館へ使いに行かされた。行く先々で、出雲と諸国の多くを知った。民のために国がどうあるべきか、子供なりに考えた・・・」
大倭の建国以前、郷長や村長も村上と呼ばれていた。
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