三 助言

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 その夜。  布都(ふつ)の館で夕餉がすむと、疲れから皆が早く寝床に着いた。  広間の布都斯は(しとね)を蹴って足を投げだした。水田で冷えた足が今は火照って熱かった。 「あのように話しても、八島野(やしまぬ)を連れてゆくのですね」  隣りの褥が動いて、(いね)の呟きが聞こえる。 「いろいろ経験せねばならぬゆえ・・・」  布都斯は屋根裏を見あげた。 「危険はないのですか?」 「危険だ・・・」 「では、なぜ?」  稲が布都斯のそばへ寄った。 「八島野はあの歳になっても、野良仕事しかできぬ」  布都斯は稲の肩に腕をまわして抱き寄せた。まわりから子供たちの寝息が聞こえる。  ここ、父・布都の館は布都の家族たちに加え、田植えの手伝いに来た、布都斯と下春(したはる)尾羽張(おばはり)の三家族と三人の実家の母たちが寝起きしている。部屋数が足らぬため、布都斯の家族は広間で眠っている。 「私のせいです。私が子らの身を案じたばかりに、このように世話をやきすぎて・・・」  稲はかたわらで眠る子供たちを見て、しおらしくつぶやいた。 「俺や下春や尾羽張が剣鍛治の修業をはじめたのは、十歳の時だ。  俺たちは皆、出雲の郷の村上(むらが)の館や蹈鞴衆(たたらしゅう)の館へ使いに行かされた。行く先々で、出雲と諸国の多くを知った。民のために国がどうあるべきか、子供なりに考えた・・・」 大倭(おおやまと)の建国以前、郷長(さとおさ)村長(むらおさ)村上(むらが)と呼ばれていた。
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