五 短甲

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 秋晴れがつづき、刈り入れがはじまった。  布都斯(ふつし)下春(したはる)蹈鞴衆(たたらしゅう)が稲穂を刈り、子供たちと芙美(ふみ)磐坂彦(いわさかひこ)を背負った(いね)がその稲穂を屋敷の広場へ運び、地面に広げて干した。  いつも稲にまとわりついている布留(ふる)宇迦(うが)は、下春(したはる)の末子・佐太彦(さたひこ)とともに、稲穂に群がる雀や野鳥を棒で追った。その間も穀物倉の南から、八島野(やしまぬ)手斧(ちょうな)で木を割る音が広場に響いている。  日暮れになると、稲と芙美と子供たちは、干した稲穂が夜露で濡れぬよう、高床の穀物倉の床下へ入れた。雨が降りそうになると穀物倉に入れた。  雨の日は、稲や子供たちの作業は休みになったが、布都斯と下春たちは雨に濡れながら稲穂を刈った。穀物倉の床下の柱に細い丸太を横に数段くくりつけて稲穂をかけ、雨の日も稲穂を干せるようにした。  十日ほどすぎて稲穂が乾いた。布都斯と下春たちは稲穂を広場の中央に集め、六尺ほどの根曲がり棒で叩いて脱穀した。  布都斯や下春たちの近くで、子供たちは雀や野鳥を追いながら、脱穀した(もみ)を選り分けて(かます)や麻袋に入れ、(わら)を束ねた。
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