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「義姉上様。下春殿は子たちを、どのように育てているのですか?」
磐坂彦を背負った稲は館の入口で、数日内に食べる分の籾が入った臼を芙美とともに杵で突いている。
米は籾のまま保存するほうが日持ちするため、食べる間際に杵と臼で籾を突き米にする。
「特別なことなど、何もないよ。ただ、
『成功は人によって異なる。成功したことを話しても、役だつとはかぎらぬが、失敗は人それぞれに共通する。失敗を語ってやれば、子の役にたつはずだ。
子が親を慕うかぎり、子の思いに応えてやれ。ああしろこうしろと強制してはならぬ。ただし、まちがいは正せ。そうすれば、己の思いと、思いを成し遂げようとする心が生まれる』
と言われているだけさ」
杵を突きながら芙美が言う。
「無理に教えこまずとも良いのですか?」
稲と芙美は交互に杵をついている。
「先祖が説きあかした、この世の成り立ちと、定めは教えてるよ。その他のことは、親を見て覚えているみたいだ」
「えっ、教えてないのですか?」
稲が杵を止めた。
「布都斯と稲が子たちに教えることも、見て覚えているらしい」
芙美は話しながら杵を突いている。
「そうですか・・・。子らは、私たちをどう見ているのでしょう?」
稲は止めていた杵を突いた。子らとは、布都斯と下春の子供たちのことである。
「稲は、子らが何かしようと考える前に、世話をやきすぎる・・・。
布都斯は、子が思わぬことでも、無理にやらせようとしている。そう思ってる」
「そんなふうに・・・」
「おもしろいと思えば、布留や宇迦さえ、あのように雀を追って、籾を叺に入れる」
布留と宇迦は兄姉や従姉妹たちを見よう見まねで、飽きもせずに、群がる雀や野鳥を追い、叺に籾を入れている。
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