五 短甲

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義姉上(あねうえ)様。下春(したはる)殿は子たちを、どのように育てているのですか?」  磐坂彦(いわさかひこ)を背負った(いね)は館の入口で、数日内に食べる分の(もみ)が入った臼を芙美(ふみ)とともに(きね)で突いている。  米は籾のまま保存するほうが日持ちするため、食べる間際に杵と臼で籾を突き米にする。 「特別なことなど、何もないよ。ただ、 『成功は人によって異なる。成功したことを話しても、役だつとはかぎらぬが、失敗は人それぞれに共通する。失敗を語ってやれば、子の役にたつはずだ。  子が親を慕うかぎり、子の思いに応えてやれ。ああしろこうしろと強制してはならぬ。ただし、まちがいは正せ。そうすれば、己の思いと、思いを成し遂げようとする心が生まれる』  と言われているだけさ」  杵を突きながら芙美が言う。 「無理に教えこまずとも良いのですか?」  稲と芙美は交互に杵をついている。 「先祖(うじがみ)が説きあかした、この世の成り立ちと、定めは教えてるよ。その他のことは、親を見て覚えているみたいだ」 「えっ、教えてないのですか?」  稲が杵を止めた。 「布都斯(ふつし)と稲が子たちに教えることも、見て覚えているらしい」  芙美は話しながら杵を突いている。 「そうですか・・・。子らは、私たちをどう見ているのでしょう?」  稲は止めていた杵を突いた。子らとは、布都斯と下春の子供たちのことである。 「稲は、子らが何かしようと考える前に、世話をやきすぎる・・・。  布都斯は、子が思わぬことでも、無理にやらせようとしている。そう思ってる」 「そんなふうに・・・」 「おもしろいと思えば、布留(ふる)宇迦(うが)さえ、あのように雀を追って、籾を(かます)に入れる」  布留と宇迦は兄姉や従姉妹たちを見よう見まねで、飽きもせずに、群がる雀や野鳥を追い、叺に籾を入れている。
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