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晴天がつづいた。
脱穀をはじめて五日目の午後。下屋に、下春が籾を持ってきた。
「脱穀は終わりです。米にするのはこれだけでいいですか?」
「外の臼に入れてください」
夕餉のしたくをしていた芙美と稲は外へ出た。稲の背に磐坂彦がいる。軒下から臼を引き出して、ふと広場を見ると、広場の中央に藁束の山があり、脱穀に使った根曲がり棒が立てかけてある。蹈鞴衆は梯子を登って、籾の叺を穀物倉に入れているが、子供たちと布都斯がいない。
「子たちは、どこですか?」
杵を持ちながら、稲は下春に聞いた。
「穀物倉の南です。八島野の短甲を見にゆきました。布都斯もいっしょです」
その時、矢を射る弓弦の音がして、板の割れる乾いた音が響き、うめき声がした。
稲は杵を投げだし、穀物倉の南へ走った。稲の背で磐坂彦が泣きだした。
穀物倉の東側で、櫓門からつづく丸太柵にむかい、布都斯が弓を構えて立っていた。その背後に子供たちがいる。
「なにごとですか?」
布都斯の背後で、八島野がふりかえった。
「父上が・・・」
八島野が泣き声で丸太柵を指さした。柵の近くで樫の短甲が矢に射られて割れている。
「あなたっ!」
「木目が絡んだ根本を使えと言ったはずだ。木目が通った板は、あのように割れて、矢を通してしまう。目が絡んだ根本を使え」
ふりかえらずに布都斯が言った。
「・・・・」
「それとも、鉄の短甲を着るか?」
「根本を使います・・・」
布都斯はふりかえると、八島野の頭を撫でた。
「わからぬことがあったら、父に聞くのだぞ・・・。今日はこれまでにしろ」
「はい・・・」
「さあ、皆、藁をかたづけて、館に入ろう」
「はいっ」
子供たちは広場へ歩いた。その背後から、八島野が肩を落としてついてきた。
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