一 日向の伊奘

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「・・・その後、出雲はどうになっておる?」 「安芸(あき)よれば、これまで遠呂智(おろち)が支配していた出雲、隠岐、石見(いわみ)伯岐(ほうき)に加え、長門北部と因幡の海辺にも(とぶひ)(たむろ)を築きました。布都斯(ふつし)と父の布都(ふつ)、叔父の佐久佐比古(さくさひこ)、義弟の尾羽張(おばはり)の四人が三百騎あまりをひきいて、高句麗の侵略に備えて海辺の監視と防備をつづけながら、衛族(えいぞく)を探索している由にございます。  そしてこの夏、下春(したはる)と、鉄穴衆(かんなしゅう)村上(むらが)を務める西利太(せりた)(かみ)和仁(わに)の指揮で、五年前から建造している八十人乗りの軍船が十二隻完成しまする。この軍船すべてと、騎馬兵百騎、歩兵百兵をひきいて和仁が隠岐へ渡り、海辺を監視防備して衛族を探索するとのこと」  村上は集団の指導者、烽は狼煙台がある砦で、戍は多くの兵が駐屯する砦である。 「海辺の監視に、船を使わぬのか?」 「この夏、これまでに建造した軍船すべてを和仁に与えますゆえ、出雲の軍船は夏以後に完成する二隻をあわせ、三隻にございまする。  布都斯が軍勢をひきいて衛族を探索するのは、新たに軍船がそろった後にございまする」 「そうか・・・」  高句麗がさらに勢力を伸ばすと読んだな。布都斯は噂以上の男だ。注意せねばならぬ。  伊奘(いざ)はそう思った。 「ひきつづき、大森に出雲を探らせよ。長門に流れ着いた衛族のことは大森に話すな、と安芸に命ずるよう宇佐に伝えよ」 「衛族のことを、安芸はすでに大森に話してあるとの由に。いずれ布都斯の耳に入るかと・・・。衛族のことはなぜに?」 「安芸が漢の奴婢(ぬひ)を中津に連行したのを聞けば、布都斯は衛族を探索して安芸と中津に攻めこむ。布都斯に筑紫(つくし)へ攻め入る口実を与えてはならぬ」  配下の者が不安な顔をしている。
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