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翌朝。
小雨の中を余部の息子・杜撫孔が気比の郷へ使いに走った。余部と村人は戍と烽を築く騎馬隊に協力した。
三日後。
雨が止み、余部の郷の戍と、香住と竹野の烽が完成した。騎馬隊は余部の郷にもどり、戍で杜撫孔の帰りを待った。
夕刻。杜撫孔が帰った。
「我が支配地なれば、いずこに戍と烽を築こうと、いっこうにかまわぬ。条件しだいで大倭に従う。いつでも話し合いに来てくれと気比は言っております」
杜撫孔が余部とともに戍に報告に来て言った。
「承知した。
余部。杜撫孔。これまでの行いに感謝する。そなたたちの協力に報い、そなたたち二人をこの地を治める大倭の上に任ずる。今後は・・・」
布都斯は二人を大倭の上に任じて、余部の支配地を大倭に加え、村人を大倭の民とした。村人は大倭の国内を自由に行き来し、政庁の市はもとより、大倭の国内で自由に商うことを許された。
「ありがとうございまする」
余部と杜撫孔が地面にひれ伏した。
「そのようにしなくていいのですよ」
下春は腕を取って二人の身を起こした。
「明日、余部は我らに同道して竹野の烽で我らの帰りを待ち、尾羽張に、大倭の定めと上の制度、上集えと上議りを説いてもらえ。
尾羽張は十騎をひきいて竹野に留まり、外海を見張れ。父たちが早く来るかもしれぬ。船が見えたら狼煙をあげて船に知らせろ。我らは七十騎をひきいて気比の郷へ行く。
事が終わったら、尾羽張と下春は因幡と越の監視につき、一甫は出雲へもどれ」
「戦になるとお考えですか?」
七十騎をひきいると聞き、尾羽張が言った。
「これまで、条件しだいで大倭に従うなどと言った者はいません。気比はなにか策を練っているのでしょう。注意せねばなりません」
下春は不審に思っている。
「わかりました」
「八島野。勝手に一人で動いてはならぬ。俺か伯父上のそばにいて、指示通りに動け」
「はいっ!」
「日の出前に出立する。兵に、夕餉を食ってよく眠っておけと伝えよ」
「承知した」
騎馬兵に指示するため、下春と尾羽張、一甫は戍を出た。
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