七 余部

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 翌朝。  小雨の中を余部(あまるべ)の息子・杜撫孔(とぶく)気比(けひ)(さと)へ使いに走った。余部と村人は(たむろ)(とぶひ)を築く騎馬隊に協力した。  三日後。  雨が止み、余部の郷の戍と、香住(かすみ)と竹野の烽が完成した。騎馬隊は余部の郷にもどり、戍で杜撫孔の帰りを待った。  夕刻。杜撫孔が帰った。 「我が支配地なれば、いずこに戍と烽を築こうと、いっこうにかまわぬ。条件しだいで大倭(おおやまと)に従う。いつでも話し合いに来てくれと気比は言っております」  杜撫孔が余部とともに戍に報告に来て言った。 「承知した。  余部。杜撫孔。これまでの行いに感謝する。そなたたちの協力に報い、そなたたち二人をこの地を治める大倭(おおやまと)(かみ)に任ずる。今後は・・・」  布都斯(ふつし)は二人を大倭の上に任じて、余部の支配地を大倭に加え、村人を大倭の民とした。村人は大倭の国内を自由に行き来し、政庁の(いち)はもとより、大倭の国内で自由に商うことを許された。 「ありがとうございまする」  余部と杜撫孔が地面にひれ伏した。 「そのようにしなくていいのですよ」  下春(したはる)は腕を取って二人の身を起こした。 「明日、余部は我らに同道して竹野の烽で我らの帰りを待ち、尾羽張(おばはり)に、大倭の定めと上の制度、上集(かむつど)えと上議(かむはか)りを説いてもらえ。  尾羽張は十騎をひきいて竹野に留まり、外海(そとうみ)を見張れ。父たちが早く来るかもしれぬ。船が見えたら狼煙(のろし)をあげて船に知らせろ。我らは七十騎をひきいて気比の郷へ行く。  事が終わったら、尾羽張と下春は因幡(いなば)(こし)の監視につき、一甫(いるほ)は出雲へもどれ」 「(いくさ)になるとお考えですか?」  七十騎をひきいると聞き、尾羽張が言った。 「これまで、条件しだいで大倭に従うなどと言った者はいません。気比はなにか策を練っているのでしょう。注意せねばなりません」  下春は不審に思っている。 「わかりました」 「八島野(やしまぬ)。勝手に一人で動いてはならぬ。俺か伯父上のそばにいて、指示通りに動け」 「はいっ!」 「日の出前に出立する。兵に、夕餉を食ってよく眠っておけと伝えよ」 「承知した」  騎馬兵に指示するため、下春と尾羽張、一甫は戍を出た。
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