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「急所はそれている。傷の中を洗ってください」
一甫は矢を細く削って、裂いた麻布を巻き、たっぷり焼酎を浸して、八島野の傷に挿しこんだ。痛みから八島野が気を失ったまま暴れようとしたが、一甫は八島野の脚と胴を押さえつけた。矢が貫通した反対側から汚れた血がふきだすと、焼酎にまじって鮮血がふきだすまで傷の中を洗った。
下春は八島野から矢が刺さった樫の短甲をはずした。
「腹の傷は浅い。内臓までとどいていない。こっちも焼酎で洗ってください」
下春は八島野の太腿の傷に血止めと毒消しと痛み止めの薬草を当て、焼酎を浸した麻布を巻いた。一甫が焼酎で洗った八島野の腹部の傷も血止めして薬草を当て、焼酎を浸した麻布を巻いた。
「仲間を返せっ」
三十人ほどの村人が弓に矢をつがえたまま、林に近づいてきた。腰に剣を帯びている。
「皆っ、矢をつがえろっ。引きつけてからだ。合図するまで姿を見せるな・・・」
捕らえた男を前に引っ立てて、布都斯が木立の陰から姿を現わした。男の左手首を男の背後へ捩じあげ、奪った剣を背後から男の喉に当てている。
「我らは気比と話し合いに来たっ!その数では我らに勝てぬ。危害は加えぬゆえ、弓弦を切って剣とともに弓をそこ捨てろ!さもなくばこの首を刎ねるぞ!」
「はやく、仲間を返せっ!」
「まだ、わからぬのか・・・。皆っ、構えろっ!」
木立の陰から、弓を構えた七十人の騎馬隊がいっせいに姿を現わした。つがえた矢の狙いを村人たちに定め、弦を引き絞っている。
「・・・わかった。・・・剣も弓も、ここに置く」
村人が武具を捨てると、ただちに騎馬隊が村人を包囲した。
「おい。あれは従兄だぞ?従兄の一甫だろう?」
包囲した騎馬隊のあいだから、一甫を見た村人が声をあげた。
「誰だっ?」
一甫が治療の手を止めた。
「俺だ。従弟の真一だっ!皆もいるぞっ!」
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