八 深手

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「なんと・・・、皆、無事だったか・・・」  一瞬、安堵した一甫(いるほ)の顔が歪んだ。戸惑いから怒りに変わっている。 「それよりなんてことをしたんだ!大倭(おおやまと)の王の御子を傷つけたんだぞっ!高句麗の脅威も去って、やっと一族を探す遠征ができたのに、なんてこった!」  下春(したはる)に血止めされて麻布を巻かれる八島野(やしまぬ)のわきで、一甫は困り果て頭を抱えた。 「・・・本当に、我らを探しに来たのか・・・」 「当たり前だ。そうでなければ、なんで私がここにいる。まったく、なんてことだ・・・」  やっと一族が逢えたのに、これで一族の首が刎ねられると一甫は思った。 「・・・すまぬ事をした・・・」  村人たちが布都斯(ふつし)と騎馬隊の前にひれ伏した。 「馬鹿者め!今さら謝っても何もならぬ!。御子を介抱するから、早く家に案内しろっ!」 「今は、八島野を動かせぬ。しばらく待て・・・」  布都斯は麻布を巻かれた八島野の傷に手を当て、八島野の顔色を診ている。  常人から見たら、布都斯はいかにも大倭の建国者らしく、我が子の負傷に取り乱すことなく、平静に見えた。  だが、幼き頃から布都斯の身近に仕え、また、友として布都斯の性格を見知った下春は、布都斯の感情が大嵐の真っ只中にあるのを感じていた。我が子が傷ついた悲しみと不具にならぬかとの不安、傷つけた者への激しい怒りが激しく感じられ、ことによっては気比(けひ)(さと)を総攻撃しかねないくらいだった。 「お前たちは、私たちに何をする気だったのだ?」  一甫が真一を問い詰めた。 「俺たちは、その・・・」  真一は返事できない。 「我らを襲い、一人残らず(あや)めるつもりだった・・・」  布都斯が八島野の傷を診ながら言った。  八島野の腿の傷は急所をそれている。傷は中まできれいに焼酎で洗い流され、出血も止まっている。これなら回復して、これまでのように歩けると布都斯は安堵していた。 「真一(しんいる)。誠か?」 「・・・」  一甫が問うが、真一は答えない。一甫は困惑した。 「何ゆえ、そのような事を・・・」
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