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「・・・気比にそそのかされ、青銅の武具をもらったな・・・」
八島野の傷に手を当てたまま、布都斯がつぶやいた。
「すまぬっ。大倭の兵が偵察に来る。衛族を奴婢にする気だ。一人残らず討てと言われ、青銅の武具を与えられた。本当にすまぬっ!」
ふたたび村人たちがひれ伏した。
真一たち漁村の村人が大倭の騎馬隊を討てば、気比は支配地から侵入者を排除できる。村人が騎馬隊に討たれても、真一たちが勝手に大倭の騎馬隊を襲ったのであり、己の指示ではないと言えば気比はそれですむ。気比が大倭騎馬隊を恐れているのは確かだった。
「ちちうえ・・・」
「気づいたな。痛みを取るから、そのまま気を楽にしていろ・・・」
布都斯が八島野の傷に手を当てた。早く癒えるよう、先祖に病平癒を祈っている。
「痛みが和らいだな・・・」
「うん・・・」
「家へ運んでくれ」
村人たちは八島野を村の大きな茅葺きの家へ運んだ。
村は一甫の従弟・真一が長を務める衛族と蝦夷たちの漁村だった。
「顔が変わって、わからなかったぞ。女と子供はどこだ?皆、元気か?」
真一の家で一甫が訊いた。
「元気だ。戦を避けて気比の村にいる。従兄者も無事で何よりだ。御子を傷つけたことは、ほんとうにすまぬ・・・」
「すまぬではないっ。大倭の王の御子を傷つけたのだ。それなりの覚悟しておけ・・・」
「わかった・・・。従兄者は大倭の奴婢か?」
「私はこの大倭の王・布都斯様から上の位を与えられ、大倭の村を治めている。大倭に奴婢はおらぬ」
「ほんとうに、奴婢ではないのか?」
真一が不審な顔をしている。
「私は布都斯様の義弟君に助けられ、布都斯様に仕えている。嘘ではない」
「楊舜も仕えているのか?」
「楊舜の船は西へ流された。こたびは、布都斯様にお願いして、お前たちを探しに来た。
布都斯様が気比に使いを出して、そのことを伝えたのに、この有様だ。
楊舜たちも布都斯様の力をお借りして探すつもりだ」
「くそっ、気比にだまされた・・・」
真一が歯ぎしりして眉間に皺よせた。
藁の寝床に横たえている八島野の息遣いが荒くなった。
布都斯は八島野の額に手を当てた。
「熱が出てきた。水を頼む。これを煎じて飲ませてくれ」
持ってきた麻の網籠から薬草を取りだした。
「私が飲ませる。水をください」
下春が言うと、村人が外へ湧き水を汲みに行った。
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