八 深手

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 村人が水を汲んでもどると、布都斯(ふつし)は麻布を水に浸して絞り、八島野(やしまぬ)の額に乗せた。 「お前たちが、女と子供たちを気比(けひ)の村へ行かせたのか?」 「いえ、気比がそのようにさせました」 「やはり、そうか」 「どう言うことです?」 「そなたたちが逆らわぬよう、人質にされたのです」  下春(したはる)は水の壷を火のそばへ置いて言った。 「なんてこった・・・」  村人たちは呆然としている。 「お前たちを欺き、我が子に深手を負わせた気比の行いは、大倭(おおやまと)の戒めに値する・・・。  気比は疑りぶかい。下春、一甫(いるほ)、策を練ろう・・・。この村に輿はあるか?」 「あります」  真一(しんいる)たちが村へ行けば、気比は真一たちが大倭の騎馬隊を討ったとみなし、女と子供たちを無事に帰すだろう。布都斯たちが行けば、使いが知らせたように、気比は条件をつけて大倭に帰属するのを拒み、真一たちと騎馬隊が行けば、気比は人質を盾に(いくさ)をしかけて来る。それらのことは下春も想像できた。 「真一。今のうちに、皆に、昼餉を食わせておけ」  一甫が真一に言った。 「従兄者(あにじゃ)たちの分もしたくする。食ってくれ。皆の昼餉を作れっ」  真一が村人たちに指示した。
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