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「どうした?」
「安芸が大森を出雲へ差しむけたは良き策にございました。
しかしながら、近頃の大森は出雲に魅せられて、己の素性が布都斯にばれぬかと不安に思っておりまする」
「その時は、その時だ」
「わかりました。伊奘様のお話、主・宇佐に伝えまする。では、これにて」
伊奘にひれ伏して挨拶すると、宇佐の配下は広間をから去った。
『人の心が出雲に向けば、人も物も出雲へ流れ、筑紫の租賦が減る。人の心をひきとめんとして出雲と争えば、戦で人が討たれ、田畑の収穫が減り、元も子もなくなる。
いずれ、出雲は衛族を探索して筑紫に遠征する・・・。
諸国と誓約をかわしたように、出雲とも誓約をかわし、和平に持ちこむのが得策かもしれぬ・・・』
伊奘は筑紫の北方の豪族たち、宇佐、福間、那珂、壱岐、対馬、糸島、松浦と商いを通じて同盟を結び、友好関係を保っている。
『・・・一族をひきいて出雲に対抗できるのは、いったい誰だ。冉と諾か・・・』
伊奘は十二歳の娘・冉と、その許嫁・諾を思った。
『高句麗が攻めくれば出雲が動く。高句麗に対し、我らは出雲の動きを見てから動けば良い。冉と諾に、そのことを理解させておかねばならぬ。
それにしても、我らが繁栄するにはいかにすべきか・・・。
やはり、豪族たちの上に立たねばならぬが、いったい誰が立つのだ・・・』
配下の者が広間から去ると、伊奘は考えこんだ。
その夏。
大倭では、西利太の上を務める、鉄穴衆の村上・和仁が兵をひきいて隠岐へ渡った。
和仁の後任に衛族の上・一甫が西利太の上に任じられたため、出雲に流れ着いた衛族は、仮住まいしていた軍船の作業小屋から西利太の鉄穴衆の館へ移り、鉄穴衆とともに暮らしはじめた。一族は鉄穴衆とともに鉄穴場に窯を造り、鉄穴場から出る粘土で器を焼いた。
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