九 気比

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「千二百兵なら、そなたの支配地など、いっきに攻め滅ぼせる・・・。そなたが王なら、支配地を守るであろう?我らを迎え撃たぬのか?」 「・・・」  布都斯(ふつし)の言葉が耳に入らぬのか、気比(けひ)は気が抜けたように浜辺の軍船を見ている。 「それとも、逃げるか?」  気比が物を乞う顔になった。 「帆印と船数を知っておるなら、布都斯殿は高句麗軍を追い払ったことがあるのだな?そうなのだな。また、追い払ってくれぬか?」 「兵が浜にあがったぞっ!」 「頼む。助けてくれっ!私は(いくさ)を好まぬ。助けてくれれば、何でも言うことを聞くっ!」  気比が高台から階段を駆け下った。広場にひれ伏して頼んでいる。 『先ほどの意気ごみはどこへ消えた。真一(しんいる)たちをけしかけて我らを襲わせたのに、己は戦もできぬのとは・・・。この男にこの(さと)は守れぬ。この男に対し、布都斯はどう動く?』  下春(したはる)はそう思った。 「皆の者。いったん浜辺にもどるっ!  日暮れ後、軍船の兵とともに総攻撃をするっ!  気比。我らを迎え撃つがよかろう・・・」  布都斯が轡を返した。  布都斯は馬の向きを変えて真一たちを見た。 「・・・私は衛族(えいぞく)(おさ)一甫(いるほ)に、衛族が大倭(おおやまと)の民として暮らすことを許した。よって、真一が長を務める浜辺の村人は、衛族も蝦夷(えみし)も大倭の民であり、真一は大倭が認めた(かみ)である。  我らは浜辺の村に(たむろ)(とぶひ)を築き、大倭に従わぬ気比から皆を守る。  一甫。浜辺の村へもどったら、先祖(うじがみ)の定めと上の制度、商い、大倭の軍勢のことなど真一に説いていてやってくれ」  布都斯がこれみよがしに、真一たち漁村の村人の処遇を説明した。これで気比の村人たちに何か変化があるはずだ。 「ありがとうございまする。皆、女と子供たちを呼べっ!」  馬上の一甫ともども真一たちが深々と頭をたれた。布都斯に礼を言い、家々に隠れている女と子供たちを呼んだ。  女と子供たちが広場に現れると、真一たちは八島野(やしまぬ)の輿を担いだ。 「出立っ」
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