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「千二百兵なら、そなたの支配地など、いっきに攻め滅ぼせる・・・。そなたが王なら、支配地を守るであろう?我らを迎え撃たぬのか?」
「・・・」
布都斯の言葉が耳に入らぬのか、気比は気が抜けたように浜辺の軍船を見ている。
「それとも、逃げるか?」
気比が物を乞う顔になった。
「帆印と船数を知っておるなら、布都斯殿は高句麗軍を追い払ったことがあるのだな?そうなのだな。また、追い払ってくれぬか?」
「兵が浜にあがったぞっ!」
「頼む。助けてくれっ!私は戦を好まぬ。助けてくれれば、何でも言うことを聞くっ!」
気比が高台から階段を駆け下った。広場にひれ伏して頼んでいる。
『先ほどの意気ごみはどこへ消えた。真一たちをけしかけて我らを襲わせたのに、己は戦もできぬのとは・・・。この男にこの郷は守れぬ。この男に対し、布都斯はどう動く?』
下春はそう思った。
「皆の者。いったん浜辺にもどるっ!
日暮れ後、軍船の兵とともに総攻撃をするっ!
気比。我らを迎え撃つがよかろう・・・」
布都斯が轡を返した。
布都斯は馬の向きを変えて真一たちを見た。
「・・・私は衛族の長・一甫に、衛族が大倭の民として暮らすことを許した。よって、真一が長を務める浜辺の村人は、衛族も蝦夷も大倭の民であり、真一は大倭が認めた上である。
我らは浜辺の村に戍と烽を築き、大倭に従わぬ気比から皆を守る。
一甫。浜辺の村へもどったら、先祖の定めと上の制度、商い、大倭の軍勢のことなど真一に説いていてやってくれ」
布都斯がこれみよがしに、真一たち漁村の村人の処遇を説明した。これで気比の村人たちに何か変化があるはずだ。
「ありがとうございまする。皆、女と子供たちを呼べっ!」
馬上の一甫ともども真一たちが深々と頭をたれた。布都斯に礼を言い、家々に隠れている女と子供たちを呼んだ。
女と子供たちが広場に現れると、真一たちは八島野の輿を担いだ。
「出立っ」
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