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「布都斯様っ。待ってくれっ!俺たちは皆、大倭の王に従いまする」
村人が布都斯を呼びとめた。
「衛族をだまして布都斯様たちを襲わせたくせに、いざとなれば、高句麗軍とも戦えぬ、こんな腰抜けに従っていたのかと思うと腹がたつ。もう、俺たちは気比に従わぬ。気比と家族を追放して大倭に従う」
「気比は皆の王ではないか?」
「秦が滅んだのに、この男は我らに掟を課して、支配していただけです」
「皆、そのように思っているのか?」
「思っておりまする!」
村人たちが口々に言った。
「ならば、大倭と誓約を交わせ・・・。
この地から久幣臥の地の能登まで、すべての民を説得して大倭に従わせ、海辺に戍と烽を築け。烽と烽のあいだは二里から三里。期間は三年だ。
決して戦はするな。三年以内に説得できれば、皆を大倭の民と認め、この地を大倭に組み入れる。どうだ。誓約を交わすか?」
「なぜだ?賦役を課せられるなら、奴婢と同じだぞ」
「そうだ。なぜ、賦役を課す?」
「皆は、我らの使いが気比に伝えたことを、知っていたはずだ・・・」
布都斯は村人一人一人を見つめた。
「・・・」
村人たちは黙ってうつむいた。余部の息子が気比に伝えたことを知っていながら、真一たちに隠していたのである。
「たかが高句麗から逃れた奴婢ではないか」
ひれ伏していた気比が剣を抜いて立ちあがった。驚いた布都斯の馬が前脚を蹴立てた。
「その奴婢の立場を、三年の間、味わえっ!」
布都斯は馬をなだめながら手綱を引き、気比とむきあった。
「皆っ、こいつらを討てっ!」
気比が突き刺すように鋒を布都斯にむけた。村人たちはどうしようか戸惑っている。
「衛族を騙し、我が子に深手を負わせたお前の行いは斬首の戒めに値する。それを許しておくのだ。ありがたく思え」
布都斯が輿に乗っている八島野を示した。
「こいつを討てっ!王を討てば、兵もひるむ。勝機も生まれるぞっ!」
「まだわからぬかっ!あれは、我らがひきいた軍船だっ!兵は千二百兵。我らを討っても、この村は大倭の軍勢によって壊滅されるぞ!」
言い終わらぬうちに、気比の剣が馬上の布都斯へ走った。
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