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瞬時に、布都斯が十握剣を抜いた。馬上から気比の剣を弾き返し、鞍から飛び降りた。
「布都斯様っ!」
騎馬隊が八島野を守って弓に矢をつがえた。弓弦を引き絞って気比に狙いを定めている。
「手出しするなっ!」
布都斯が一喝した。
「皆っ、こいつを討つんだっ!」
気比が叫んだ。だが、村人は身動きしない。
「くそっ」
剣を頭上に構えたまま、気比が布都斯ににじり寄った。
布都斯が十握剣を右上方に構えた。
「布都斯様っ!村の掟に従って、我らが気比を処罰します!」
村人が大声で言った。
「皆は、大倭との誓約をはたすか?」
気比を睨んだまま、穏やかに布都斯が言った。
「・・・はたしまする」
村人がしぶしぶ答える。
「ならば、気比とともに誓約をはたせ。皆に最も信頼されている村人は誰だ?」
「祖都裳だっ」
「祖都裳。気比に娘はいるか?歳はいくつだ?」
「若狭だ。十五の娘がいる。人質か?」
村人の声が聞こえると、気比が、うわっと叫び、布都斯の額めがけて剣を振りおろした。
瞬時に、布都斯の十握剣が左へ弧を描き、ガッと音をたてて気比の青銅の剣が折れた。返す十握剣が右へ弧を描き、気比の右首筋で止まっている。
「三年以内に誓約をはたさねば、一族もろともお前の首を刎ねる・・・。
それまで娘には、傷ついた我が子の世話をしてもらう。
我らは常に戍と烽から、外海と陸を監視している。そして、毎年の夏、大倭の軍船がこの地に遠征する。この地から逃れても、必ず探しだす。逃れることなど考えるな・・・」
十握剣が触れた気比の首筋に、血がにじんでいる。
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