三 助言

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昼餉(ひるげ)だ。父上。一休みしよう」 「わかった。昼餉だっ!皆、(あぜ)にあがれっ!」  爾多村(ぬたむら)(かみ)布都(ふつ)の一声で、村人がいっせいに畦へあがった。  布都斯(ふつし)と布都も田の水で手の泥を洗い、畦の乾いた芝に座った。 「暖かい汁と握り飯をどうぞ・・・」  (いね)が二人に汁の入った竹筒と握り飯をさし出した。 「・・・ここにも、ありますよ」  稲のかたわらに、握り飯の入った(ざる)がある。 「ありがたいのお。冷えた足には、これが一番じゃ・・・。  なあ、布留(ふる)・・・。そう、母のもとばかりにおらんで、爺のもとにもまいれ・・・」  汁の入った竹筒をうけ取りながら、布都が稲の横を見て笑った。  稲の(きぬ)の裾をつかんで立っている男の子が布都のまなざしを避けて、裾をつかんだまま稲の背後へ隠れた。 「これは、これは・・・、嫌われてしもうた」  布留は四歳。一人で遊べる歳だが、いつも母のそばにいて、一人で遊ばない。生まれて半年に満たない磐坂彦(いわさかひこ)を世話して家事をする稲は、四歳の布留と二歳の宇迦(うが)にまとわりつかれて大変である。今は宇迦が叔母・阿緒理(あおり)に背負われている。稲にまとわりつくのは布留ひとりである。
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