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「昼餉だ。父上。一休みしよう」
「わかった。昼餉だっ!皆、畦にあがれっ!」
爾多村の上・布都の一声で、村人がいっせいに畦へあがった。
布都斯と布都も田の水で手の泥を洗い、畦の乾いた芝に座った。
「暖かい汁と握り飯をどうぞ・・・」
稲が二人に汁の入った竹筒と握り飯をさし出した。
「・・・ここにも、ありますよ」
稲のかたわらに、握り飯の入った笊がある。
「ありがたいのお。冷えた足には、これが一番じゃ・・・。
なあ、布留・・・。そう、母のもとばかりにおらんで、爺のもとにもまいれ・・・」
汁の入った竹筒をうけ取りながら、布都が稲の横を見て笑った。
稲の衣の裾をつかんで立っている男の子が布都のまなざしを避けて、裾をつかんだまま稲の背後へ隠れた。
「これは、これは・・・、嫌われてしもうた」
布留は四歳。一人で遊べる歳だが、いつも母のそばにいて、一人で遊ばない。生まれて半年に満たない磐坂彦を世話して家事をする稲は、四歳の布留と二歳の宇迦にまとわりつかれて大変である。今は宇迦が叔母・阿緒理に背負われている。稲にまとわりつくのは布留ひとりである。
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