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布都が布留に話すのをあきらめると、布都斯は、
「父上。このまま高句麗の攻撃がなく、豊作なら、この秋の収穫後に、越へ遠征しようと思う。父上は遠征をどう考えているか?」
と話しながら、竹筒の汁をすすり、握り飯を口へ運んだ。
「遠征では・・・、戦を避けばならぬ・・・。それはわかっておるな・・・」
「わかっている・・・」
「遠征先の民に、十握剣を見せて交渉するのじゃ。十握剣を打てるのは蹈鞴衆の儂だけゆえ、ただちにお前が、遠呂智を討った出雲の布都斯と知れる・・・」
布都も汁をすすり、握り飯を口に運んでいる。
大倭には、布都斯たちと同じ先祖の者や、朝鮮半島から渡来した衛族や韓族、漢から渡来した漢族、先住の民・蝦夷など多くの部族がいる。そして、因幡の東端からさらに東は、越と呼ばれ、徐族の気比が支配する地がある。その先に濊族の久幣臥、そして、日南から渡来した越族や、先住の蝦夷がいる。西州には雲南から渡来した一族で、布都斯たちと同じ先祖を持つ者がいる。先住の蝦夷を除けば、皆、政変や他国の支配を逃れてこの地に渡来した者たちとその末裔で、出雲の蹈鞴衆を知らぬ者はいない。
「・・・じゃが、徐族の気比には気をつけろ。気比はあの言い伝えに聞く秦の配下、徐の末裔だ。海の向こうから来た者、これから来る者、すべての者を警戒している。気比にとって余所者はすべて敵だ。策を講ぜねばならぬぞ」
話しながら、布都はゆっくり握り飯を噛み、汁をすすって飲みこむと、また、握り飯を一口、口に入れた。
「承知した。まだ、父上たちの助言も得ておらぬゆえ、近々、皆で父上のもとに来ようと思う・・・」
布都斯は汁の竹筒を置くと、笊から二個めの握り飯を取ってほおばった。布都斯が言う皆とは騎馬隊と兵の指揮を行っている者たちのことで、蹈鞴衆と鉄穴衆の上たちもいる。
「田植えが終わったら、雨の日にゆっくり話し合おうぞ」
握り飯を食いながら布都がそう答えた。
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