三 助言

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「父上っ!俺と五十猛(いたける)も遠征に連れていってください!  お祖父様からも、俺たちを遠征に連れてゆくよう、父上に言ってください!」  父の布都斯(ふつし)の話を聞きつけて、八島野(やしまぬ)と五十猛が布都斯のそばに来た。今年で八島野は十二歳。五十猛は十歳である。 「二人とも、無理なお願いはいけませんよ。  お祖父様。向こうにも握り飯を配りますので、お取りください」 「では、一つだけ・・・。  決めるのは父上だ。儂ではない。父上に聞きなさい」  (いね)が握り飯を勧めた。  握り飯を取りながら、布都は八島野に言った。 『こまったものよ。八島野はいつも人頼みだ。五十猛は兄のまねばかりで己の心で動いておらぬ。このままなら、布都斯は二人を遠征に連れてゆかぬだろう・・・』  布都は握り飯を口へ運びながら思った。 「お祖父様・・・」  八島野が情けない顔をした。五十猛は何も気にせずに、握り飯をほおばっている。 「あなたは?」  稲は八島野を無視した。危険な目にあわせたくないのである。 「もらおう・・・」  布都斯は三つ目の握り飯を取った。  稲は布留(ふる)を連れてその場を離れた。義母たちや義姉妹とともに、人々に握り飯と汁をすすめている。 「・・・遠征は、これが実って、刈り入れが終わってからだ・・・」  握り飯を食いながら、布都斯は植えた苗を指さした。  八島野は言われたことをまちがいなく行うが、工夫せず、先祖(うじがみ)に思いを問うて先を見通すこともない。小心なくせに無鉄砲なのである。 「・・・豊作なら遠征するが、不作なら遠征はせぬ。連れてゆくかゆかぬかは、それまでの二人の行いを見て決めるゆえ、今はどうこう言えぬ・・・」 「父上・・・」  八島野は情けない顔をして握り飯にかぶりついた。  五十猛は何も気にせずに握り飯を食っている。  そのむこうで、畦に腰をおろした村人たちに、稲が汁と握り飯をすすめている。  稲を見る布都斯の視線に気づくと、布留が稲の(きぬ)の裾をつかんだまま稲の背後に隠れた。 『幼い頃の八島野と五十猛は、あの布留のようではなかった・・・。なのに、今は・・・。子供の心は、わからぬ・・・』  布都斯は八島野と五十猛の、大人びた幼児期を思った。
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