第三章 死の様な森も雪降れば白く

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「犯人は、そんなに遠くには行っていません。足音が近い……でも、何でしょう、地下から聞こえてきています」  日鋼丸は、音で人間を追いかける事ができる。他に嗅覚や振動などでも分かるらしいが、ここでは嗅覚が役に立たなかった。 「匂いはありません」  足音が近いのに、匂いがしないという事は、地上にはいないという事かもしれない。 「繁典を追う!」  本村は、到着した現地警察と立ち話をしていた。だから、俺は本村に声を掛けずに、日鋼丸と繁典を探し始めた。 「繁典は、ここで働いていた事があるので、建物に詳しい」  俺は図面を思い出すと、木造の玄関に入った。玄関横には雪かきの道具や、靴を保管する小部屋があった。そして、その横には乾燥室があった。  この収納の小部屋の出入り口は、見た目は壁のようになっていて、扉を移動させてスライドさせる。そして、扉を外して使用するらしい。  だが、見た目は本当に壁で、暁子や千子は小部屋の存在を知らなかったかもしれない。 「この部屋は、外からも入れるようになっていた筈……」  俺が玄関横の小部屋を確認しようとすると、スライドができなかった。どうも、中に突っかえ棒のようなものがあるらしい。 「日鋼丸」 「はい」  日鋼丸は、扉を蹴り飛ばすと外し、中の電気を付けてくれた。 「自家発電が稼働している」 「はい、先程、修理してまいりました」  小部屋の中は空になっていたが、もう一枚、扉があるように感じた。どうも、乾燥室と小部屋の間に、押し入れのような隙間が空いていた。  壁の隙間を探して手を入れると、俺は壁を外してみた。 「穴?もしかして、地下があるのか?」  地下に続く穴には、梯子が掛けられていて、それは鉄製のものであった。 「私が降りて中を確認してきます」  穴の中は真っ暗で、ライトで照らしても底が見えない。
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