第三章 死の様な森も雪降れば白く

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 繁典の父は、ここに来ていた華族に、近隣の娘を手籠めにしないで欲しいと懇願した。すると、繁典の妻が犯され、子供を身籠った。だが、それでも繁典は我慢し、別荘で働いた。  この周辺の家では、どこにも一人や二人、ここにいた華族の血を引く者がいた。それは、認められていない子供で、皆、この別荘を恨んでいた。 「取り壊そう……」 「そうじゃない。恨んでいても、感謝もしてきた。金に困った時に、助けられてもいたのだから……」  華族は悪行だけしていたのではなく、ここに療養に来た男の、女癖が悪かったというだけだった。他の華族は、土地の為にあれこれしてくれたので、追い出せなかったのだ。 「……認知はされなかったが、存在には気付いていて、色々と援助をしてくれた……」  ここで死んだ若夫婦には、両親や兄弟がいて、子供の存在に気付き、援助をしてくれていたらしい。 「真実を、生きている家族に説明してください。それと、俺達を殺そうとしたのは別問題ですからね」 「分かった……話そう」  俺が繁典に背を向けて、空から帰るか、日鋼丸に連れ帰って貰おうか迷っていると、ボスッというような、鈍い音が聞こえた。 「何だ?」  俺が振り返ると、繁典は折れた枝を背中から刺され、血を吹き出していた。繁典は何かを喋ろうとしているが、血が肺にも入り込んでいるようで、ブクブクと泡を出していた。 「繁典さん!!!」  繁典が倒れずにいるのは、刺さった枝が支えているようだ、だが支えきれないのか、ずるずると足が滑っていた。 「日鋼丸!」  繁典は事実を話そうとしていたので、これは自殺ではない。  日鋼丸は周囲の気配を確認すると、藪の中に入って行った。 「繁典さん!!!」 「…………真実は……」  繁典は何かを言いかけたが、俺に手帳を出すと、そのまま息絶えていた。
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