第三章 死の様な森も雪降れば白く

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「日鋼丸、誰かいたか?」 「はい」  日鋼丸が捕まえたのは、繁典と同じ顔をした老人で、駆け寄ってきた斎藤が、伴典と呼んだ。 「どうして……伴典叔父さん……」  伴典は、何も言わずに、持っていた鉈で、自分の首を切った。 「伴典さん!!!!!!」  何がどうなったのか理解できないが、真実を言おうとした繁典は、伴典に殺されてしまったのだろうか。だが、伴典も自害してしまった。 「真実は何だったのだ?」  こうなったら、自分で真実を調べるしかない。 「本村、任せた!」  俺はやってきた本村に後を任せると、手帳を持って別荘に戻った。しかし、洋館には他にも警察官がやって来てしまったので、木造に入ろうとした。 「木造もダメか……」  木造にも警察官が入っていたので、俺は仕方なく車に乗り込んだ。  車の後部座席を倒して、自分の居場所を作ると、俺は繁典の手帳を開いた。繁典の手帳は、かなり古く、途中、ページが外れて取れていた。俺は、まず手帳をクリップで固定すると、最初のページから読んでみた。  始まりは繁典が別荘で働き出した時で、この手帳は、華族の嫡男、駿がくれたものだった。  駿は肺に持病があったが、とても頭の良い青年で、同じ年頃の青年達を集めると、新しい農業の形を模索し、研究しようと言った。  繁典と伴典は兄弟で、伴典は駿の援助で進学する事が出来た。駿と伴典は、帝都で共に学び始めたが戦争が始まり、伴典は招集で兵役に就いた。駿は、病気の為に不合格となり、別荘で療養する事になった。  駿は別荘でも研究を続け、体が回復すると、将校になった。だが、すぐに終戦になったので、戦地に赴く事は無かった。  この別荘で死んでいたのは、駿の弟で、かなり出来が悪く、素行も悪かった。  ここで分かる事は、善行をしていたのは駿で、悪行を重ねていたのは、その弟であった。そして、弟の子供の存在を知り、援助していたのも駿であった。
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