第三章 死の様な森も雪降れば白く

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 ある時、伴典は余りの素行の悪さに、駿の弟、劉を殴った。すると、劉は伴典の務めていた役場に圧力を掛け、勤務地をへき地へと変更してしまった。  繁典は、妻の事では我慢できたが、伴典の件では激怒していた。そして、繁典は劉の妻を襲い、孕ませてしまった。 「やった事が同じならば、同じクズに堕ちたという事だろう……」  あの地下でミイラになって眠っていたのは、繁典の子供であったのだ。だから、繁典は、ずっと見守り続けた。  駿は作物の研究を続け、教授として大学に残った。伴典も役場を辞めると、駿の助手として働き始め、自身も大学の講師となった。  だが、手帳の表紙の後ろに写真があり、そこには抱き合っているシルエットが写っていた。それは男同士のようで、抱かれている方にも胸が無かった。   劉は女好きだが、伴典に絶えずちょっかいを出していた。伴典は、劉の兄、駿が大切にしている親友で、汚したかったのかもしれない。 「伴典は劉に約束させた。自分の体を自由にさせるから、もう他の女性を襲うなと。だが、劉は当たり前のように、他の女性を襲った……」  劉は伴典との情事を写真に残し、駿に知らせると脅した。繁典は伴典から事情を聞き激怒し、劉の妻に子供の事をバラすと脅して、伴典の写真を持って来させた。  地下室に火鉢を持ち込んだのは、村に住んでいる使用人の少女で、赤ん坊が寒がっていて可哀想だと、家中の火鉢を持ち込んだ。  だが、その使用人の少女も、劉に手籠めにされていて、恨みを持っていた。そして、伴典に恋していて、伴典が地下室で劉に抱かれている事を知っていた。  そして少女は、地下室さえなくなれば、伴典が劉から逃れ自由になると考えた。 「この、名前の書かれていない少女が、真犯人なのか?……」  少女は火鉢を持ち込むと、隙間風を塞ぐと言って、ドアの隙間に綿と布を詰めるようにした。そして綿は水分を吸って、地下室を密室にした。  少女は空襲警報に紛れて、木造に火を付けると、脱出口を塞いでおいた。そして、伴典の居場所を探し、嬉しそうに劉を殺して来たと告げた。
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