第三章 死の様な森も雪降れば白く

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 伴典は自殺したばかりだが、遺言の日付を見ると、三年ほど前のものだった。 「こっちは、遺言というより、手紙だな……」  伴典は劉に抱かれていた日々を、誰にも知られたくなかった。だから、墓場まで持ってゆく秘密があるが、どうか、誰も暴かないで欲しいと書かれていた。 『私は妻の前にも相手がいた。でも、どうか、それは、墓場まで持ってゆく秘密のままにしておいて欲しい、無論、相手との子供はいない。それは、間違いない事だ』  伴典は、同じ大学講師の女性と結婚し、子供は二人生まれた。その子供二人は大学で研究を続け、駿の支援を受けて教授になった。 『何故、そんな事を記述したかと言えば、妻の法子が、ずっと疑惑の目を私に向けていたからだ。私の心には、別の人が住んでいる。よく、法子はそう言って私を怒った。だが、そんな相手は私にはいない』  妻と出会うまで、伴典は孤独で、誰も愛せないと頑なになっていた。それ程までに、前の相手の劉は最悪だったという。だが、肉体の繋がりは強く、死ぬまで、相手が自分の横にいるようなフラッシュバックに苦しんだようだ。  書けないだろうが、伴典は相手が自分を抱いている感覚が、突然蘇り、それがリアルで怖かったらしい。 『妻の法子と子供達、親友の駿君。それが私の全てで、世界であった』  さりげなく、駿も愛していたと言っているので、法子の見解は誤りではないだろう。  繁典の持っていた写真の裏には日付があり、それが最初に抱かれた日らしい。伴典は、地下室に呼び出され、服を無理矢理脱がされると、リビングの床で抱かれた。  伴典は、男同士の情事のやり方など全く知らずに抱かれる決意をしていて、菊座に劉のモノをねじ込まれ、衝撃と痛みで、暴れて叫び号泣したらしい。それも写真にあり、細かい字でその時の状況が書かれていた。 「誰が書いた???」  そもそも、写真には劉も映っているので、誰が撮ったのだ。
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