第三章 死の様な森も雪降れば白く

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『醜く歪んだ顔と顔。それはまるで、鬼か、獣であった。肉と肉とのぶつかり合いのような情事に、意味は無いと思っていた。でもそこには、確かな繋がりがあった。この男の内臓には劉様が繋がり、溶けて混ざった。二人は一人になったのだ。それを確認するために、幾度も、幾度もそれは打ち込まれ、抜かれては更に激しく打ち込まれた』  肉と肉は一つの塊になり、互いの存在を、揺らして知らせた。伴典はもう叫ばずに、劉を門で締め付け会話した。そして、劉はこの目撃者たる者に、伴典の体を開いて見せた。 『醜い!醜い!醜い!』  だが、目を背ける事ができなかった。その理由を、この文字の主は綴っていた。 『しかし、この者、見た目だけは綺麗で、更に言葉達者に劉様に近付き、誘惑したのだ。劉様はこの男に騙され、恋した』  そして劉は昼も夜も、伴典を地下に呼び出して、体を繋げようとした。しかし、妻の目や使用人の目があり、ままならなかった。 『劉様は妻も子供も必要ない。別れたいとおっしゃった』  劉は伴典と二人で生きたいと、渇望するようになっていた。そして、劉は終に伴典の家を訪ね、一緒に暮らせば、もう誰も犯さないと約束した。 『劉様は行ってしまわれた』  伴典は、劉と暮らし始めた。伴典は、夜も昼も激しく突かれ、それは一日中続く時もあった。だが、劉は本当に、浮気はしなかった。 「そうか、繁典さんの信じた真実は、手帳に書かれていた通りだ。劉は無理矢理に伴典さんを抱き、約束を反故した。でも、実際は、劉は伴典と一緒に生きようとした」  この文字の主は、劉を別荘に戻そうと必死になり、終に伴典に頼んだ。  その頃の伴典と劉は、まるで夫婦のようで、一つの布団で眠り食事を共にしていた。更に劉は、真面目に働こうとしていて、伴典は母親のように見守っていた。 「この文字の主と、繁典は劉を連れ戻し、別荘の地下に監禁した」  結果として、劉は最愛の伴典と引き離されてしまい、伴典も別の場所で軟禁生活になってしまった。  そして、空襲警報があった日に、この家族は揃い死に絶えた。
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