第三章 死の様な森も雪降れば白く

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「……伴典さんは、本当は誰を愛していたのだろう」  ふと今日の事件報告を読んでみると、繁典は殺されたのではなく、事故死となっていた。伴典の腕力では、太い枝が体を突き抜けるまで刺せないらしい。折れた棒は、頭上付近から落ちて刺さったとなっていた。 「事故死と自殺……これは、どこまでも、偶然で奇怪だ」  だからこれも、偶然ではない。  誰かを庇って、誰かが死んでゆく。伴典が無言で死を選んだ理由は、そこに劉の姿と、駿の面影を見たのだ。 「大志か……」  久江は劉の娘なので、大志はきっと似ているだろう。 「大志は繁典に、和道を抱く姿を見られていた……でも、大志は和道と付き合っている事を、もう隠していない」  しかし繁典に、伴典の悪夢をフラッシュバックさせる効果があった。  そして伴典にとっては、大志は駿の面影もあり、駿がもうこの世にいないと実感させた。  本当に伴典が愛していたのは、駿だったのだろうか。もしかしたら、伴典は心の底では、今も劉を想っていて、引き離された事を恨んでいたのではないのだろうか。 「大志を見て、伴典は死を選んだ……」  だがもう、深追いする事は止めておこう。 「……でも、写真の文字は誰なのだろう……」  暁子はここで自殺した。繁典は事故で、伴典は自殺、地下室も事故死でいい。真相を知った所で、誰も幸せにはならないのだ。むしろ、暴かずにそっとしておいたほうが、被害が少なかった。
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