第三章 死の様な森も雪降れば白く

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「でも、今日は、美味い飯を食べて眠ろう!俺は、疲れた!」  本村が主張するのは珍しいので、俺は素直に従っておこう。 「後でマッサージしてやるよ」 「それは、楽しみだ」  素子が予約してくれたホテルは、川沿いにある旅館のような佇まいの一軒宿で、確かに山側に工事車両が止まっていた。駐車場に車を止めると、仲居の女性がやってきて頭を下げ、荷物を台車に乗せて運んでくれた。 「本館は工事中ですか?」 「はい、台風が直撃しまして、山の上の木が刺さってしまいました……他に土砂も流れ込んでいましたので、修理しております」  本館が盾になったので、別館は無事であったという。 「凄い雨で、道が川のようでしたよ」  その雨で、別荘の地下通路の土砂も流れ去ったのかもしれない。そして、隠していた地下に通じてしまった。 「別館は貸切になっております。露天風呂もご用意しておりますので、ご自由にお使いください」  案内された建物は、平屋の和風建築で、三部屋の真ん中の部屋を用意していた。空いている右側の部屋には、夕食が用意される予定で、現在、急いで作っているという。 「すいません。急な予約に対応していただきありがとうございます」 「いえ。素子様のご依頼。いつも、ご贔屓にして頂き、こちらこそありがたく思っております」  素子は、暁子が亡くなってからも、時々、別荘を見に来ていたらしい。だが、別荘に宿泊せずに、この別館を使用していた。 「本村、庭を散歩してくる」 「頼むから、何も見つけるなよ!」  すっかり夜になってしまったが、庭がライトアップされていて綺麗だった。しかも、小さいが池があって、鯉が泳いでいた。  俺は池の縁に座ると、じっと鯉を見た。 「ジェーン元気かな……」  家で飼っているジェーンは、餌を置いてきたが、元気に食べているだろうか。
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