第三章 死の様な森も雪降れば白く

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「まあ、いいか……本村、お疲れ様。俺は日鋼丸と風呂に入るから、一人で入っていいよ」  三部屋あり、その一室は使われていない筈だったが、人の気配を感じる。 「ジェーンも地下社会の人間でしょう?どうも、妙だ」 「半分当たりです。夏目様の所にいる、五十嵐の家の者で、本当に料理人です。五十嵐さんの元で働いていたので、地下社会に住んでいた事はありますが、通常社会の生まれです」  五十嵐が心配して、料理人兼護衛として、ジェーンを寄越したらしい。 「夏目様の頭脳は、地下社会の宝です。そして、夏目様は千手様の最愛の人です」 「夏目は俺の最愛でもあるけどな」  本村がさらりと、とんでもない事を言ったので、俺は驚いて凝視してしまった。  俺と本村は親友に近く、親子にはなれない。しかも、一緒に住んでいても邪魔にならない相手で、だから暮らし続ける事ができる。そんな、あっさりとした関係なので、最愛などとは程遠い。 「夏目は、俺の最愛の存在」 「本村??」  本村は真面目に俺と向き合って、何か考え込んでいた。 「最愛と思わなければ割に合わない……物は壊す、家は壊す……年中無休、二十四時間体制で護衛を必要とするし、危険、事故には日々遭遇する……」 「迷惑か?」  そんなに嫌がられているのならば、一人暮らしをした方がいいだろうか。 「……それが、迷惑と思えないから、困っている」  俺は元村に抱き付くと、背を叩いておいた。 「子供というのは、そういうものだよ」 「夏目が言うな」  しかし、俺も本村の老後まで一緒にいたいと思うようになってきた。俺も犬を飼えば、死ぬまで面倒を見る性質だ。 「老後の面倒を見るから、長生きしろよ」 「……今、犬と一緒にしなかったか?」  本村も、中々、勘が鋭い。  俺が誤魔化して笑っていると、ジェーンもつられて笑っていた。
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