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姉ちゃんのお別れ会しよう!の一言で出発前日に五十嵐家を呼んでうちでご飯を食べることになった。その日はゼミの飲み会が入っていて少し遅れると姉ちゃんに言うと、早く帰って来ないと張っ倒す、と凄むので俺は姉ちゃんが早めに潰れる事を願った。
結局その日、俺が家に着いたのは日付の変わる少し前だった。ポケットから鍵を取り出すと、神様のキーホルダーがカチャリと音を立てて揺れた。
玄関に入ると、大きなスニーカーが行儀良く脇に並べてあった。大和のものだ。リビングへ行くと、ソファで寝ている姉と、床に寝転ぶ大和が目に付いた。
こいつらまたかよ……!どうしてこの二人は酒量をわきまえないんだよ!学習しろよ!
「周、帰ってきてたの?大和くん寝ちゃったんだけどね、大きすぎて誰も運べないからうちに泊めてくれって。参っちゃうわよね」
いつの間にか背後にいた母親がそう言ってふふっと笑う。
「香也子を二階に運ぶの手伝って」
俺はあと何回、粕漬け状態の姉をこうやって担がなくてはならないのだろう、と自分の人生を嘆いた。
私ももう寝るわ、という母親からタオルケットを二枚手渡される。これは二人でリビングで寝ろ、ということか。そうなのか。
リビングへと戻ると、赤い顔した大和が床で寝息を立てている。額にはじんわりと汗をかいていた。その額に触れ髪をかき上げると、なんだかどうしようもなく切なくなった。
ずっと、このままここにいればいいのに。ずっと俺のそばにいればいいのに。
「行くなよ、大和」
行くなって言ったって、きっと大和は行ってしまう。俺の知らない、どこか遠くへ行ってしまう。わかってる。誰にも大和を止められないって。例え格好悪く縋りついたって、きっと大和は行ってしまう。
「俺を置いて行くなよ」
そう呟いた後で、背後に気配を感じて勢いよく振り返る。しんと静まり返ったリビングで、扇風機の回る音だけが微かに聞こえてきた。
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