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「そろそろ落ち着こうって気にならないの?」
「就職しろってこと?」
そういってまた漫画に手を伸ばす。
「まぁ、そうだな」
「それもいいかもしんないけど……。まだダメだな。修行が終わってねーから」
ペラペラとページを巡って答える。
修行?旅のことか?核心に触れない話ぶりにイライラして漫画を取り上げる。
「意味わかんないんだけど」
「だぁーもぉ!途中だっつの!!」
睨みつける俺と目が合って、大和は一瞬躊躇いがちに目を泳がし「まだ修行が足りねーんだって」と、ぽそりと呟いた。
その瞬間を狙い定めたかのように、階下から大和を呼ぶ声がした。同時にドアの方へ視線を動かす
「おっ!かーちゃんだな。じゃ、俺帰るわ」
素早く荷物を持って立ち上がり、部屋から出て行く。
部屋を出る間際に大和は振り向いて「神様、大事にしろよ」と口を尖らせて言った。
大和の実家、五十嵐家はお隣さんで、大和の部屋も俺の部屋の真横だったりする。
二軒の間は手を伸ばせば届きそうな距離に見えるけれど、実際は窓から窓へ行き来するには少し遠い。下手すると落ちる。落ちるのが怖くて、俺たちはまだ一回もチャレンジしたことがない。二人揃って臆病者なのだ。
大和の部屋に電気が付いたのを確認してから、パソコンの電源をいれる。適当にネットサーフィンをしていると、コンコンとドアの叩く音が聞こえた。
「周ー。おねーさまよー!開けていいー?」
その返事も一瞬たりとも待たずにドアが開く。
「あのさぁ、そんなすぐ開けるならノックの意味ないと思うんだけど」
「帰ってきたね!大和!」
姉は人の話を聞かない。
「さっき帰り際に玄関で会ったんだけどさ、大和ってば会う度かっこ良くなってくよねー。ちょっと黒過ぎだけど」
なにやら口をモゴモゴさせながら喋る。食べるか喋るかどっちかにしろと言いたい。
「あ、大和からお土産貰ったよ。これ。中身なんだかわかんないけど、おいしーよ」
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