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その後、大和はどうやっても目を覚まさなかったので、結局俺の部屋に泊まった。朝になると大和はすっかり昨日の事なんて忘れているようで、特に何を言うでもなく、親に挨拶してから帰った。
そして予想通り姉ちゃんも、昨日のことは覚えていないという。
「大和がお酒持ってアンタの部屋で待ってて、一緒に待つついでに、ビール一缶開けたあたりから記憶がないのよねぇ」
そう言っててへっと笑った。
一缶であんなへべれけになるのかよ。正直、家の外では絶対飲ませたくない。
姉ちゃん、気をつけないといつかお持ち帰られるぞ、と一応忠告すると
「なぜか外だと酔えないんだわ」
と不思議そうな顔をして言った。
一晩明けてみると、やっぱりあれは冗談だったのかも知れない、と思い直し始めていた。二回もはっきり聞いたけれど、内容を考えると到底信じられるようなものじゃなかった。
どんなつもりで言ったのか聞きたい。聞きたいけど、もし本人が覚えてなかったら今度は俺がおかしな目で見られるだろう。
そんな理由もあって、なかなか切り出せないでいるうちに日々は過ぎ去り、いつしか記憶に靄がかかり始めた頃、大和はまた旅に出ると言い出した。
大和の両親はもはや諦めており、うちの両親と姉は残念がった。かくいう俺は、早々とぽっかり穴の空いたような気持ちになっていた。大和のいない毎日をどう過ごすか。今だって頻繁に会っているわけじゃないけど、カーテンを開けて大和の部屋に電気がついているのを見ると安心した。大和がすぐそこで生活している、という事実で俺は満足していた。
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