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<1・崩壊序曲>
どすん、どすん、と重たい足音が響く。川名翔介は扉の影に隠れ、じっとその足音が行き過ぎるのを待っていた。隣で同じく息を殺している友人二人と共に。
教室の廊下側。窓は全て木の板で塞がっていたが、やや塞ぎ方が甘かったのか小さく隙間が開いていた。そこからじっと外の様子を伺う翔介である。自分達はみんな同じ中学二年生、同い年ではあるけれど。このメンツの中で、一番身体が大きくて喧嘩が強いのは自分だ、という自負があった。あとの二人はどう見ても格闘向きではない。恐ろしい状況であるからこそ、怯えず彼ら二人を守るのが自分の役目であると知っていた。むしろここで自分が挫けてしまったら、一体誰が彼らをこの恐ろしい学校から救い出すというのか。
――畜生、畜生畜生畜生畜生!なんでこんな、馬鹿げたことになったんだよ!
此処は、自分達の通う学校ではない。そもそも表の看板にはナントカ小学校と書いてあったのだから、本来ならばここは小学校と呼ばれるものであったのだろう。
いつもなら。今頃は学校から普通に帰宅して、とっくに美味しい御飯を食べているはずだった。今日はハンバーグだと母は言っていたし、まだ小さな弟も年相応にはしゃいでいたのに、何故こんなことになったのだろう。今は恐怖と緊張で、空腹さえも感じている余裕がない。あの化け物に見つかってしまったら一巻の終わりだ。今は上手いことやり過ごして、少しでも遠くに逃げるのが最優先だった。
「近づいて来るよ……」
か細い声で、ぽつりと友人の一人である小山結が言う。女の子みたいな可愛らしい名前の通り、小さくて臆病な少年だった。小学校の頃からの翔介の親友。すぐにガキ大将にいじめられては泣いている結を、いつも翔介が助けてやっていたのをよく覚えている。
お化けも妖怪も大の苦手。以前ふざけて一緒にホラー映画を見に行ったら、隣で失神していたのが彼である。そんな結にとってこの状況は、想像以上にストレスであるのは間違いなかった。
本来なら彼だって今頃は、大好きないつものアニメを見ている時間だったはずである。金曜のゴールデンは、鬼殺の剣の第三十二話が放送していたはずだ。彼は毎日リアルタイムでそれを見るのを楽しみにしていた。あまりにも結が勧めるので、翔介もファンになってしまったほどである。
こんな目に遭っていいはずじゃない。それは、もうひとりの友人も同じだ。
「静かに、結。……万が一ドアを破って来たら、反対側のドアから逃げる。わかってますね?」
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