One.嘘吐きには制裁を

59/59
6213人が本棚に入れています
本棚に追加
/256ページ
「ちょっ⁉︎」 突然の出来事に動揺せずにはいられず、彼の腕の中でじたばたと抵抗する。 「は、離れてくださいっ。あなたの側に居ると〝何故か〟発情を起こしやすいんだからっ……!」 彼の身体をグイグイと押し、自分から引き剥がす。 人目もあるし、そもそも付き合ってもいない相手と抱き合う事自体、おかしいから。 ちなみに〝何故か〟を強調したのは、また運命だなんだと言われたくないからだ。 ……だって、絶対に運命なんかじゃないし。 すると東徳さんは、いつもの無表情でしれっと口を開いた。 「ああ、悪い。やっぱりお前が可愛過ぎて、思わず抱き締めちまった」 「は、はあっ……⁉︎」 「ーーお前、名前は?」 「え?」 全く予想していなかった質問が飛んできた為、不覚にも間抜けな声が出てしまう。 「名前って……知ってますよね?」 既に何回か、彼から名前を呼ばれている。しかも呼び捨てで。 「知ってる。相沢会長の一人息子、相沢 花梨」 「じゃあ、何で」 「お前の口から直接聞きたいなと思って」 「え?」 「自己紹介は、大事だろ?」 ……レアな笑みを浮かべながらそんな事を言われーー胸の奥が何故か疼いた。 やっぱり僕は、この人の笑った顔に弱い……のかもしれない。 「……ぁ、相沢 花梨、です」 「俺は、東徳 恭平だ」 「……よ」 「ん?」 「……よ、よろしく……」 一瞬きょとんとした顔をしてから、東徳さんはまたフッと微笑んだ。 「ああ。よろしくな、花梨」 ……また心臓がうるさくなりそうだったから、僕は彼の顔から目を逸らした。 運命なんかじゃない。こんな意地悪な奴は、運命の番なんかじゃない……! 意地悪で、無愛想で…… だけど、実はちょっと優しい人ーー。 第一章 終
/256ページ

最初のコメントを投稿しよう!