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Two.疑心暗鬼の胸の奥
あのバレンタインデーから、二ヶ月が過ぎた。
季節は桜満開の四月。
四年生に進級すると同時に卒業論文に着手し始め、早くもゼミ室に籠る事が多くなった。
「この部分は、各世代にアンケートを取ってから考察したいと思ってます。あと、出来る限り現地の声も纏めたいです」
卒論に関する今後の大まかな予定を教授に伝えてから、今日は早目にゼミ室を後にした。
「あっ、花梨ちゃん!」
廊下を歩いていると、ふと名前を呼ばれたので足を止めて振り向くと、友人の朝美がこちらに小走りでやって来た。
デニムのショートパンツに厚底スニーカーという、いつも通りのスポーティーな服装の彼女は、今日もトレードマークの茶髪のお団子を揺らしている。
「朝美。何か久し振りだね。元気だった?」
「久し振りなのは花梨ちゃんがいっつもゼミ室に行っちゃうからだよぅ! まだ四月なんだから、そんなに急いで卒論に取り掛からなくても! もうテーマも決まったんだっけ?」
「あはは、ごめん。急いでる訳じゃないんだけど、ゼミ以外の単位は殆ど取れてるし、割と暇でさ。卒論は、アメリカの所得格差と経済格差について書こうと思ってるよ」
「えっ、じゃあ時間ある⁉︎ 今度、必修の数学教えて〜! 難し過ぎて去年、単位落としちゃったんだよ〜!」
朝美は小学校からの友人で、いわゆる幼馴染み。
僕は今の両親の養子になった際に転校したのだが、転校先の小学校で真っ先に声を掛けてくれたのが朝美だった。
その後、中学も高校も同じで、偶然にも進学した大学まで同じという縁の深さだ。
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