Two.疑心暗鬼の胸の奥

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翌日。 今日はゼミの教授が一日不在ということだったのでゼミ室には寄らず、図書館で卒論に使えそうな参考文献等を探していた。 海外所得格差論、経済政策論、現代アメリカにおける経済政策等ーーある程度読み込んだところで、たまには暗くなる前に家に帰ろうかと思い、本を数冊借りる手続きをしてから大学を後にした。 帰りの電車に揺られながらスマホを手にすると、東徳さんからのメッセージを受信していた。 特に何という用件でも無く、暗くなる前に帰れよ、なんて事が書かれていたーー僕は子供か⁉︎ ……東徳さんは、昨夜あれから二人で食事をした後、いつも通り丁寧に車で家まで送ってくれた。 油断しているところで今日こそホテルに連れ込まれるんじゃないかと身構えてもいたが……そんな気配はまるで無かった。 ……いや、本当に別にどうでもいいけどさ。寧ろその方が有難いよな?うん。 そんな事を思いながら、自宅の最寄り駅で降り、いつも通りの帰り道を歩いていく。 その時だった。 帰路の途中にある歩道橋を降り切ったところで、ロングヘアーで同い年くらいの女性が泣きながら蹲っている姿を発見した。 「どうかしましたか?」 「っ!」 声を掛けただけなのだが、女の子は怯えた様子で僕に振り返る。 ……すぐに気付いた。 この子はどうやら、オメガの発情中らしい。 この様子からして、恐らく突然の発情期に襲われ、動けなくなってしまったのだろう。
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