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第63話 アスパラとシラスのパスタ
「というわけなんで、ここでお手伝いして貯金しているんです。有紀君は幼馴染だから理解してくれていますし」
「だったら、どこかのお金持ちと結婚してしまえばよくない? そうしたら、芽生ちゃんのために投資してくれるんじゃないかな」
「それはよくないですよ?」
陽の質問に、芽生は間髪入れずにツッコんだ。
「そんなことしたら、結婚相手に失礼じゃないですか。まるでお金目当てみたいな。その人のことを好きになって結婚するんだから、私の夢の件は結婚相手には関係ないはずです」
「じゃあ、開業資金全てを肩代わりしたいって人が現れて、その人が求婚して来たら芽生ちゃんはどうするの?」
「うーん、そんな都合のいい話ありますかね? でも、もしそう言ってくれるなら、喜んでお受けしちゃうかも」
下心のない芽生の笑顔に、そう、と陽はうなずいた。山崎が休憩から戻ってきたので、芽生が交替で休憩に入る準備をする。
「御剣社長、何か食べたいものあります? 休憩なんで、今私作りますから、一緒に食べません?」
「じゃあ、芽生ちゃんのおすすめで」
「かしこまりました!」
***
旬のアスパラは柔らかくて甘みがたっぷりある。パスタを沸騰したお湯に入れると、芽生はさっさとアスパラを切って茹で、冷まして水気を切った。
フライパンにオリーブオイルを気持ち多めに入れると、ほんの少しだけにんにくを入れた。弱火で香りを引き立てて、そこにアスパラとパプリカ、玉ねぎスライスを入れる。
さらに茹で上がったパスタを入れて、ゆで汁を少し加えてから、シラスをまぶしかける。レモンを絞って塩と胡椒で味を調えた。
「有紀君、知り合いの社長と食べてくるね」
陽の隣の席は空いていたので、芽生は出来上がったアスパラとシラスのパスタを出すと、隣に腰を下ろした。
「はい御剣社長。パスタとハイボールもとっても相性がよかったりしますよ」
「芽生ちゃんは、そんなちょっとでいいの?」
「私は、ご飯食べてからここ来てるんで、お夜食です。あんまり食べると太っちゃうから。いつも一口なんです」
オリーブオイルとシラスの良い香りが食欲を刺激する。芽生と陽は手を合わせていただきますをしてから、パスタをくるくるとフォークに巻いて口へと運んだ。
「んん! 我ながらめっちゃおいしい! コショウかけちゃおっかなー。御剣社長は、コショウいります?」
芽生は厨房からコショウを取って来て自分のパスタにかけた。
「じゃあ少しだけ」
「はーい。ちょっとかけると味が変わって美味しいですね。レモンで疲れは取れるし、旬の野菜で身体は元気になるし、ああ、ご飯ってホント美味しい」
「芽生ちゃんって、ほんとに美味しそうにご飯食べるよね」
「そうですか? 美味しいものは大好きですよ」
「ついてるよ」
陽の指が伸びてきて、芽生の唇に触れた。芽生が慌てて陽の指をかっさらうと、おしぼりで念入りに拭く。
「ごめんなさい、私結構ぼうっとしているみたいで」
芽生が揺らがないのを見て、彼女のことを知りたい気持ちをとっくに超えて、陽は芽生のことが欲しくなった。
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