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ほんの少し冬の気配を乗せた、寒いある秋の日。
第二子が生まれ、疲労困憊していた私の元に父と母が来た。母は掃除をあわただしく済ませ、父が長男の話相手をしていた。ヒーローものを熱く語る幼稚園児を適当に受け流し、次男の世話をする私に父が握りこぶしを差し出す。
「これ、やるわ」
これと言われても日焼けしたこぶししかない。ぐずっていた次男が興味を引かれたのかピタリと泣き止む。
「かなこ、誕生日やろ」
「ああ、うん」
そういえば今日は自分の誕生日か。子供たちの世話に追われ、すっかり忘れていた。珍しいこともあるものだ。父がプレゼントをくれたことなど人生で二度しかない。自慢気に開いた手を見ると、銀色に光るネックレスが乗っていた。
「何これ」
「こういうの、好きやろ」
「まあ、確かに」
月と星のモチーフがついたネックレスは私好みだった。プレゼント包装とか箱とかないのか。体温で生ぬるくなったネックレスを受け取ると、モチーフがわずかに欠けていた。
「端っこ欠けてるで」
「ほんまやな」
いや、ほんまやなやなくて、梱包はどこにいった。よく見るとチェーンもあちこち錆びている。わずかに汚れもあるような、もしや。
「お父さん、これどこで拾ったん?」
「ここ来る途中や」
やっぱり、と肩を落とす私に「キレイやろ?」と父は笑う。濡れた洗濯物を抱えた母が「あっそんなん渡すのやめとき言うたのに!」と声を上げる。
終戦の年生まれの父には拾い癖がある。私が子供の頃からいろんなものを人からもらったり拾ったりしてきたが、一番大きな拾い物は粗大ごみの山から回収した革張りのソファだった。
それは後に合皮のソファとわかり、母が粗大ごみに出した。
「そんなんもろて喜ぶ娘なんかおらんて言うたんやけど、渡すて聞かんから」
「かなこに似合うやろ?」
「似合うで、新品やったらな」
母は苦笑いをしてベランダに出た。父の拾い癖に散々苦労させられた母は、もう怒る気力もないのだ。
次男がよだれでべとべとの手を伸ばしたので、空中に遠ざけた。
「これ、誰かの落としものやろ?」
「そうやろな」
「誰が落としたんやろ」
「さあなあ」
「いつから落ちてたんかな」
「そうなあ」
だめだ、のれんに腕押し。父にとって落ちていた物は誰のものでもない。元の所有者には興味がないらしい。
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