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第二章
めて血を浴びる私のことをきれいだと言った男と夜を明かすと、私たちは男の住む部屋にいた。男に誘われたのだ。話してみると男と私の価値観はぴったりと一致していた。男の名は天宮湊斗(アマミヤ ミナト)というらしく、池袋でホストをしているらしい。
「ずいぶん、質素な部屋ね」
男の部屋には必要最低限の家具しかなく、黒や白といったモノトーン調で、白黒映画を見ているようだ。
「お気に召さなかったかい?でも、小夜には真っ白な病室のような部屋か、真っ黒な光のない部屋が似合うと思うな」
「そうかしら。でも、色がないのは好きよ。夜の闇はとても綺麗。逆に昼間の眩しくて騒々しいのは、あんまり好きじゃないわ」
そう言うと湊斗は「じゃあ、君の好きな夜の色をしたコーヒーを入れてくるよ」と言ってキッチンへ消えていった。湊斗は一人暮らしのようで、リビングと自室しか部屋はなかったが、高層ビルの最上階に位置する部屋に住んでいた。私は部屋に何のこだわりも持っていないので家賃三万円のボロアパートに住んでいるが、部屋の中はここと同じようにほとんど色がない。クローゼットの中は真っ黒なドレスとパーカーだけだし、家具もスチール製の簡素なベッドくらいだ。
「はい、コーヒー。砂糖とミルクはいる?」
私の前に白いティーカップに入った吸い込まれるような黒色のコーヒーを置いて言った。
「そうね、今日はたくさん運動して疲れたから、ミルクを少しもらおうかしら」
そう言って湊斗の顔を上目遣いに窺うと、湊斗はいたずらっぽく口角を上げると、
「ここに住めば毎日運動できるけどいかがかな?」
といってコーヒーにミルクを垂らした。
「そうね、考えておくわ」
実際のところ、私は今住んでいる家に一ミリの未練もないし、湊斗と一緒に住むのも悪くないと思っていた。問題があるとすれば、血液をどうやって確保するのか、くらいだが、それは後々考えればいい。
「今日はもう疲れただろう。奥の寝室のベッドを使うといい。さすがに疲れているところを襲うほど俺も狼じゃない」
「ありがとう、そうさせてもらうわ」
寝室はキングサイズのベッドが中央に置いてあり、その横のランプと台以外は何もない。リビングと同じようにシンプルな部屋で、私は疲れていることもあってかすぐに寝付くことができた。
「おやすみ、小夜」
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