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男は下を向いて歩いていた。今日も何も良い事が無かったので、せめて小銭でも落ちていないかと期待していたのだ。
小銭は無かったが、ふと、足下に影が差す。疑問に思い空を見上げると、ゆっくりと降りてくる長い髪と白いワンピースの後ろ姿があった。
あ、ぼた餅が降ってきた。
受け止められるほど腕力に自信は無かったが、こうするべきであろうという漫然とした意識から、両手を出した。ふんわりと羽根のように落ちてきたそれは、重さを取り戻すことなく、ふんわりと羽根のような重さのまま男の両腕に収まった。女性と縁の無いまま三十まできてしまったのでよくわからないが、女とは案外本当に軽いものかもしれないと自分に言い聞かせる。何にしろ、腕に伝わってくる温もりが、彼女の実存を確信させる。
これからどうするべきか思案しながら、抱き上げた女の顔に視線を落とすと、定石通りに美しい少女であったので、家の近所なのもあって、持ち帰る事にした。
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