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壁や障子の耳や目を意識して、敢えて声に出した。男は、「自分はこれを生き物と思わなかったのだ」と、居もしない神様に言い訳て安堵し、少女に毛布をかけて隠した。
それからは、日に何度か毛布を捲って少女をうっとりと眺め、時々はベッドに上げて添い寝をした。馴れた目でよくよく見ると、真実、これは人間でないのだ。傷付けても血は流れず、治りもせず、歯も毛穴も無ければ、鼻の穴など形だけですぐに行き止まっていた。
幾日か経ち、これは精巧に作られた人形なのだと思い込むのに成功すると、男はふと思った。少女を椅子に座らせ、一緒に食事をしたり、風呂に入らせたりしたい。まともな仕事を得て二人で暮らし、この素晴らしい少女と、もっと堂々と生活したい。所帯を持ちたい、と。
奮い立った男の行動は早かった。十年も前に取るだけ取って投げ出していた資格を盾に職を見つけた。自立したいと言うと親は泣いて喜び、引っ越しの費用を工面してくれた。
そうして、最初の給料を手にする頃には彼女との愛の巣も見つけ、いざ引っ越し、という頃。仕事に向かうため、いつものように彼女をベッドの下に押し込もうとするも、腹がつかえて入らない。
失礼して腹を触り、「まさか」と青ざめる。所帯を持ってから、と決めて触れずにいたワンピースの裾を捲り上げると、裸の下半身の上に意味ありげにぽっこりと膨らんだ腹があった。
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