4人が本棚に入れています
本棚に追加
◇ ◇ ◇
「この俺が働いてまで所帯を持とうとしてやったのに。天使のような見た目に騙された。彼女の不貞に傷付いて、山に連れて行って埋めた」
男はここまで一息に話すと黙り込んだ。
「茸が生えた、最初の山ですね」
尋ねると、男は数刻黙った後に小さく頷く。
「胞子を吸った人間が次々と倒れたとニュースになって、すぐに、彼女の仕業だと理解した。あれは人形でも天使でも無い。宇宙人だったに違いないと察して、すぐに地下シェルターに逃げ込んだ。あれは人間を滅ぼすために落ちてきたのだ。もし、俺が山に埋めずにいたら、腹の中の化け物が産まれて、誰も彼も逃げる間もなくやられていたはずだ。俺が山に棄てたから、俺や、俺のように危険を察知した君などの賢い人間が、どこかのシェルターで生き延びているのだ」
「果たして、そうでしょうか」
感情の無い声で、少女は否定した。
「もしかしたら、彼女は天の遣いで、人を試しに来たのかもしれない。滅ぼすか、生かすか、神が裁きを下すために。もし、彼女があなたの善意か愛情かで無事に出産まで至っていたら、人類には別の道が待っていたかもしれない。……なんにせよ、人は負けたのだ。あなたとて、死ぬ」
地下シェルターの冷たい床の上で仰向けに転がったまま、もう大分重たくなった瞼を無理矢理こじ開け、男はすぐ横に立つ少女を見上げた。白いワンピースの裾がひらめき、形だけの鼻の穴が、入り口からすぐのところで行き止まっている。
「君は、何をしにこのシェルターに来たと言っただろうか」
「地面の下にいる、という通信を最後に居なくなった、番を探しに」
それだけ聞くと、男は泡を吹いて事切れた。
最初のコメントを投稿しよう!