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運命の出会い
学校帰りの雨。
忍野守は傘をさしたまま走っていた。
「バイトに遅れちゃう」
彼は飲食店でアルバイトをしている高校二年生であった。思春期真っ最中の男子高校生であったが恋愛の経験はほぼゼロといってもいいだろう。
しかし。
彼も男の子であるために異性と関係を持ちたいと思ってはいるが現実では仲のいい女の子はいないのでアルバイトで現実逃避をしている。
なんとも哀れな高校生である。
ただ、少し特徴的なところがある。
異常なほどに猫が好きであることだ。
急いでいるうちに、近くの交差点で信号待ちをしていると
「ニャー。」
獣の鳴き声が聞こえた。
地面に響く大きな雨粒の音や車のエンジン音。
こんなにも騒々しい環境の中に一匹いた。
守は運命だと感じた。
ガードレールの付近で段ボールしか住処のないずぶ濡れの子猫がそこにいた。
餌をあげていなかったせいか。体はずいぶんと痩せていて目元には大きなめあにがついている。
辛かった。
とにかく見るのが辛かった。
こんな残酷な姿にさせたやつを目の前にいたらぶん殴りたい。
同じ思いをさせてやりたいのだ。
見るたびに僕のことを包み込まれていく小さくても響いてくる鳴き声。
小さな体のわりには大きな瞳をしている。
この子が運命の子なんだ。
だから、店で預かることにしました。
二
命を引き取ることなんて人生で初めての経験である。
隣に住んでいる近所のおばさんの娘が最近結婚して子供を授かったらしい。
とてもめでたいことだ。
人はどんな気持ちで命を作るのだろうか。
「こんぐらいでいいか。」と軽い気持ちで作る人もいるのかもしれないが、しっかり将来のことを考えて作る人もいるだろう。
その人たちみたいに自分の人生の中でとても大きなリスクを僕は負いたくないと考えていた。
だけど、
猫を拾ってしまった。
運命だと思ってつい拾ってしまった。
自分の責任感なんて感じなかった。吸い込まれていく鳴き声と瞳が僕の頭の中をおかしくさせたのだ。
本当は可愛いからという理由が大半だけどね、
期待を不安が混じっている中、店の裏口のドアを開けた。まだ開店準備中であった。
僕が働いている。飲食店は基本的真昼と夜にしか営業していない。
真昼が過ぎて十四時ぐらいになるとお客さんはほとんど来ないのである。
だから夕方まで営業を中断して食材の補充や店内の掃除、レジの精算など多くの業務をこなす。
最初に僕の前に現れたのは最近入ったたばかりの新人さんの「ジンさん」であった。
彼はアメリカから日本に越してきた外国の人で日本語を勉強したいからここのアルバイトをしていると本人から聞いた。
「かわいい!」ジンさんは子猫を見ると大きな声ではしゃいでしまった。
何事かと見にやってきたひとが四人も来た。
「猫だ!かわいい!」
僕と同じ年の西城奏そう言った。
彼女は僕と同じ学校に通う女子高校生である僕とは真逆でクラスの人気者で友達からも信頼されているらしい。
僕はそんな彼女のことを目標として過ごししていたのだ、彼女みたいに友達もたくさんいてみんなからちやほやされているそんな存在でいたいのだ。
あと三人は一気に紹介しよう。
小泉誠、フリータで無口な男性。
見た目は怖いけど中身は優しい。
バイトリーダーの小島瑠璃子。
彼女は大学に通いながらこのバイトのリーダーを務めている。毎日が大変そうだ。
最後に店長の田中さん。
彼は、何考えているか分からない
あと、従業員は多数いるが主な人物はこの五人である。
「この猫はどこから拾ってきた?」
怖そうな顔をした誠さんが言った。手には調理用のナイフを持っている。
「あまりにも濡れていてかわいそうだったので拾いました!」
後でナイフで切りかかるだろうと覚悟して僕は言った。
「そうか、」
誠さんがナイフをそっと振りかざし子猫に向けた。
「そうしたらちょうどいい、調理しよう。
猫料理なんて楽しみだな。
沈黙が少し続いた。
「冗談だよ。」
みんな本当のことだと思い込み、ふーと安心のため息を口からはいた。
この人は冗談が通じない人なのだ。表情を表に出さないし普段は無口でいる人なので何を考えているかここの従業員は分からない。
ただ、子猫がやってきたので
誠さんの表情に少し明るさが見えた。
今日はなんだかいい日になりそうな予感。
店長に迷惑にならない程度なら飼ってもいいということで今日からこの子猫も従業員の仲間になった。
僕は嬉しかった。何にもない僕でも子猫一匹の命を救うことができたのだ。
大事にしよう。
何だか初めて母性本能が目覚めた気がして自分の母もこういう経験があったのだろうか。
母親は僕が生まれたことについて何も言わない。僕から質問するがいつも違う話に変えてくる。
僕のことを避けているのか。
そんな母親は僕が中学に入ったばかりの時に違う男を作って家から出ていった。
「さよなら」の一言も言わないで数万円のお金を置いて出ていいった。それからずっと父親と二人暮らしの日々を送っていた。
僕は母親が嫌いだ。
中学最後の体育祭も友達のお母さんはたくさんいて愛しの子供たちに手を振ったりカメラを握ったりしていた。
うらやましかった。
マザコンだと思われるかもしれないが、最後の体育祭には顔を出してほしかった。
その後の卒業式も母親の姿はいなかった。
長話になったが僕の過去の一部であった。
「なんか、おなかへってそう。
誰かご飯持ってない?」
奏が問いかけてきた。
「それなら、」
僕はカバンの中をゴソゴソと漁り始めた。
みんな興味津々に何が出てくるんだろうとみている。
出てきたのは子猫用の栄養食。
しかもかなりいいのを持っている。
「なんでこんなのカバンの中にあるの?」
ジンさんが少し引いた感じで質問してきた。
「いやー、やはり猫好きなもんでいつも猫のことを考えているんですよ。
いつ、会えるのかな。
いつ、拾いに来てくださいという段ボールが見れるのかなとか。
そしたら今日という日が来て、、」
「わかった、もういい。さっさとあげろ」
ジンさんが口止めしてきた。
周りはもう引いていた。
奏は死んだ魚のような目で見ているし
誠さんは少し距離を置いている。
瑠璃子さんは猫に夢中で話を聞いていなかった。
店長の田中さんは仕事に戻っていなかった。
僕は少し照れながら子猫に餌をあげた
ものすごい食欲のせいであるのか
バクバク食べている。よっぽどおなかが減っていたんだな、僕は食べている子猫の頭をなでながら笑みを浮かべた。
「うまい、うまい!」
「誠さんいくら子猫が可愛いからって猫の感情を真似しないでください」
僕は少し怒ったような口調で誠さんにいったが誠さんは
「俺一言もしゃべってないよ」
え。周りが唖然とした空気の中
「いやー、この食感たまらないなー、価格も相当なものを使っているだろう。素材も国産で私好みである。うまいうまい!」
子猫が早口でしゃべっていた。
みんなは言葉が出ないまましゃべっている猫を見ていた。衝撃が強すぎて何が起こっているのか分からないまま固まっている。
最初にジンさんが話を持ち掛けてきた。
「お前、しゃべることができるのか?」
子猫は餌を食べ終わった後、急に立ち上がって語りだした。
「私は猫でありながら、人間でもあります。信憑性がないのであるなら少しお待ちください。」
子猫は自分のしっぽを口に向け、鋭い歯をむき出したまま思い切り噛んだ。
周りは、こいつは何をしているんだという疑問をもって眺めていた。
その時、まるで魔法少女の変身のシーンみたいに子猫の体から光が放った。
一斉にまぶしい光が放ったため、しりもちをついた人や、驚きを隠しきれず口を開けたままの人もいた。
僕は思考が回らないでただただ光を眺めているだけだった。
変身が終わると可愛らしい女の子に変わっていた。
身長は150センチ程度で少しぽっちゃりしている、黒い瞳は何もかも吸い込まれそうな目力を感じる。まるで猫のような黒髪ロり系キャラみたいだ。
変身時間はたったの2秒間。
これは敵キャラもすぐには倒すことはできないだろう。
この子が僕のヒロインになることは誰も知らない。
二
あの出来事の後、店長が子猫のまま家に預けることにした。僕の家では子猫を飼うことは可能だが、父親の前で子猫が急に女の子になる現象を見られてしまったら何言われるか分からないので時間をおいてからにすると店長に言った。
バイトが終わって家に帰る。
いつもと同じ道を歩いていく。
途中の道にある古くてボロボロのラーメン屋が潰れていた。
良く幼いころに両親と通った時期もあった。
母親がいつも頼むのは当店自慢の大盛りのチャーハンであった。細めな体系の割にはよく食べる母親でがつがつ食べている母親に負けたくない思いで僕もお子様のチャーハンを口の中がリスのようにパンパンになるぐらい必死に食らいついていた。
父親に「よく噛んで食べろ」と優しく怒られ天罰が食らったのかのどを詰まらせてむせってしまった。
そのダサい姿を見た僕を母親は軽蔑するような顔をみせて馬鹿みたいに笑っていた。
そんな思い出もあった。
あの頃がとても愛おしい。
一人になる度にそんなことを思い出してしまう。
家に帰ると父親は仕事で家にいなかった。
机の上に置いてある五百円玉に小さな手紙があった。
「これで晩御飯でも買っていきな」
よくあることだ。
父親の仕事は家から距離が遠い場所にあるため朝は家に早く出て、夜は帰りが遅い。
だから、ほとんど料理できる時間もないのだ。
ん?
お母さんはどこにいるかって?
ははは、何か事情があることを知って質問したね?あなたきっと恐ろしい人でしょう。
その答えはのちほど出すので楽しみに待っていてください。っと読者に語りかけるのはさておき。
こんな夜が毎晩のように繰り返される。
高校生になって一人でいるのは慣れているがまだ子供なので寂しい気持ちが胸の中に残っている。
「今日はコンビニ弁当でいいか。」
誰でもいいから僕を温めてくれる人はいないのだろうか。
三
朝になり、うるさい目覚まし時計で布団から起きる。
今日の朝はいつもより早めに起きることができた。さすがに父親は家にまだいるだろうと恐る恐るリビングを見ると汚い見た目の目玉焼きが一つととなりにチンご飯が置いてあった。
自分が作る目玉焼きのほうが絶対おいしいだろうとそう思いながらも醤油に垂らして召し上がった。
見た目は少しひどいわりに味は美味しかった。まろやかなとろみが口の中に広がる。
まるで人の噂話みたいだ。
噂話は人から人へ早くそして全体に広がっていくが継続力がない。
「人の噂も七十五日。」
まさにその通りである。
すぐに広がって入るものすぐになくなってしまう。そんな卵焼きの味がした。
朝食を食べ終わり、学校に行く。
時間ギリギリに席に座るとクラス中が
何だか騒がしい。
興味はないがこそこそと話している女子グループの会話に耳が入ってしまった。
「今日転校生が来るらしいよ、しかも女の子だって!」
「マジ!このクラス女の子少ないから助かるわ、かわいい子なのかな?」
「転校生?」
手に持っている小説を読みながら何だか心当たりのある出来事を思い出した。
昨日、子猫を拾った。
その子猫が僕や従業員の目の前で人間に変身した。しかも可愛い女の子。僕と同じくらいの年であろう。
そんな漫画のような、ラノベのような非現実的な出来事が昨日おこった。
そんな女の子がこの学校に来ているのか?
変な期待感と緊張感が入り混じって自分を非現実的な世界に迷い込まれていく。
三分遅刻してようやく先生が教室に入ってきた。
「えー、今日は転校生が来てます。」
平然とした顔で先生は生徒たちに話し始めた。
クラス中はまたざわつき始まった。
そんなざわついているクラスの中で一人緊張して汗がとまらない僕。
教室のドアが開いた。
「!!」
見たことのある顔だ。
身長は150センチ。髪の色は黒。
大きな瞳は猫のようで誰もが吸い込まれそうなそんな目をしている女の子。
制服の姿は似合っていた。何だか言ってどんな服装も似合う顔をしている。
身長さえ伸びればもっといいのだが、
彼女は先生から自己紹介を勧められた。
しかし、
「私には名前がありません。なので、みなさんで何でもいいのであだ名をつけていただきたいです。」
周りはみんな黙っている。何が起きているのかわからない。名前のない女の子に急にあだ名付けろと言われても。
クラスで人気の高い男子が
「じゃー、クロコちゃんは?髪の色黒だし、背が小さいから子供みたいだからコを付けるかんじでどうすか?(笑)」
沈黙の空気をどうにか穏やかにしようと頑張った男子高校生に対して
「背が小さいのは余計です。」とツッコミを入れたところクラス中がどっと笑いに包まれた。
僕も少し笑いそうになった。
結局あだ名は「クロコちゃん」になった。
こいつが来てクラスがもっと面白くなれそうだ。
朝の会が終わって授業前の小休み。
クロコちゃんがこっちにやってきた。
「忍野くんだよね?昨日はありがとう。」
いきなり目の前で美女の感謝を言われてしますと少し照れてしまう。女の子の耐性が弱いのだ。
「急になんだけど、忍野くんと同じバイト場所で働くことになりました!」
「えー!」あまりにも衝撃過ぎている内容だったので大きな声で驚いてしまった。
周りはどうした?と心配半分、興味半分で見ていた。
まぁ、店長が決めたことだから仕方ないか。
これからこいつと一緒に働くのか。
とてもめんどくさいことになるだろうな。
そう思いながら次の事業の準備を始める。
あ、次の授業の教科書忘れた。
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