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棘
今日も今日で一斗の部屋でエレキギターの練習。最近はずっとそうだ。
部屋主はというと、稽古場から自転車で帰ってきて、また汗かいちゃったんだけど、とシャワー中。
机の上に置きっぱなしの一斗のスマホが鳴り出した。
「一斗〜! スマホ鳴ってるよー!!」
鳴っても鳴っても鳴り止まない。
「一斗ー? 聞こえないかな」
「うわああ、びっくりした! なんだよ」
いきなりお風呂場を開け放したから、驚いている。寒そうに肩にお湯をかけ始めた。
「スマホがずっと鳴っててさ。急用じゃないのかな」
「えー、マネジャーだったら、出なかったらメッセージ残すからな。名前なんて出てる?」
「名前? え、こわ」
「どうした」
「悪魔って登録してるの誰なの」
「ん、じゃあ、出なくていい。そのうち諦めるよ」
「押し売りか何か?」
「似たようなもん。母さん」
「母さん……。分かった。机の上にまた置いとくね」
「お願い〜」
留守番電話サービスに繋がったら切って、またかけ直しているようだ。
母親から電話がかかってくる時は、金の無心なんだと言っていた。バイトをしながら、不本意な仕事もしながら、したい仕事もできないまま、夢を追いかけている息子に、遊ぶ金をせびってくる。
「お願いだから。一斗を苦しめないで」
静かに眠り始めたスマホに向けて、呟いた。
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